第二話 大きさより質を 

お陰様でいろんなヨットに出会う事ができました。ある人に言わせれば、どれもたいして変わんないだろうという人も居ますが、とんでもない。べた凪ならどんなでも良いでしょうが、時化られた時はヨットにおおいに助けられます。良いヨットはやはり船体剛性が高い。波に負けないと言いますか、ですからこういうヨットで乗るセーリングは得られるフィーリングが違います。私はどこかに行くよりも、このドライブ感を大事にしてますので、大きさは自分で制御できるサイズ、後は質だと思ってます。
高い質のドライブ感を得たいと思ってます。

昨年の秋ごろ、あるヨットオーナーからトランペットを頂きました。元々、楽器が好きで、ジャズが好きだったもんですから、すぐに飛びつきまして、そこからご近所さんの迷惑も省みず、練習してきました。最初は音が出無いのが、少しづつ音が出てきて、今度はできるだけきれいな音を目指す。
ところが、なかなかうまく行かない。習いに行く暇も無いので、そのまま続けてますと、自分でましになってきたかなと思った頃、録音して聞いてみたんですが、これがひどい音、聞くに堪えない音で、ご近所の迷惑甚だしい。

人間てのは我侭と言いますか、これ以上練習しても、このトランペットじゃ無理、このトランペットが悪いんじゃないかと、都合の良い事を考えるわけです。それで、楽器屋に行く。恥ずかしながら、吹けないにも拘わらず、試奏してみるわけです。これゃぁ、驚いた。全く別の楽器じゃないかとおもうぐらい違ったんです。見た目は全く同じです。当たり前ですが、同じ形、同じデザイン、きれいさも全く変わらない。でも、吹いてみると、出てくる音は全く違うし、操作の具合の滑らかな事、まいりました。

店員に何故こんなに違うのか尋ねてみますと、職人の違いによる造りの違い、材質の違いだそうです。それにしても驚いた次第です。見ただけでは全く変わりはないんです。楽器は音が命です。
プロならずとも、アマチュアでも良い音が出ると気持ちが良いものです。

それで、ヨットを考えますと、同じ事が言えます。ヨットは音ではありませんが、走ったドライブ感に出てくる。しっかり造られたヨットとそうで無いヨットでは、特に波が高くなったり、風がつよくなったりしてくると、その差がどんどん広がってきます。材質が違う、造りが違うと言葉で言えば、それだけかもしれませんが、楽器同様に、出てくるフィーリングに跳ね返ってきます。それで、良いフィーリングですと、もっと乗りたくなる。楽器も同じですね。高級品である必要は無いかもしれませんが、できるだけしっかりした造りのヨットを選んでほしいと思います。

予算があるから、よりでかいヨットという単純な発想では無く、より良い造りという事も念頭においていただきたいです。日本はどちらかと言いますと、最も安いか、スワンなどのように有名ブランドの高級艇かとなる傾向が強いので、その中間にも良いヨットはたくさんあります。図体がでかくなればなるほど、しっかり造らなければ、ねじれます。叩かれて、その衝撃は大きくなり、船体は波に負けてしまう。そこから得られるドライブ感とはどんな物でしょうか。

良い物はやはり、オーナーを助けてくれますし、より良いドライブ感を与えてくれる。だからこそ、存在できているわけです。品質を無視して、高い、安いと言うのは間違っています。ひょっとすると、その安いのは、実質的には高いのかもしれない。その高いヨットは安いのか知れない。大波、強風にあった時、そのヨットが年数を重ねていった時、それが解ります。

ちょっと値段が高い物を検討する時、これも、あれも標準でついてるべきだと思う人が居ます。でも、違うんですね。高いヨット程、オプションが多い。何故なら、こういうヨットを買う人は解っている人です。解っている人は何が必要で何が必要で無いかが解っています。ですから、オーナーはそれを選ぶ事ができる。

初心者だからどうでも良いという事は無い。最初にグッドフィーリングを得るべきだと思います。ただ、乗ら無いなら必要ないし、別荘代わりも必要ない。でも、セーリングを楽しみたい人には、是非
考えていただきたいです。それで、もし予算不足なら、中古艇を探してください。へたな新艇より、品質の良い中古の方が絶対良い。ただ、残念ながら日本には非常に少ないですが。今まで、そういうヨットの実績が日本には非常に少なかった。これからは、サイズばかりに目を囚われないで、品質も吟味してほしいと思います。

ヨットはセーリングして、どんなフィーリングが得られるかが、命です。それを味わいたいんです。
全部ごちゃ混ぜにしてはいけません。

イタリアのストラディバリウスというバイオリンがある。これに何千万も払ってでも手にいれようとする人が居ます。つまり、それだけ音に対するドライブ感がほしいんです。ヨットもストラディバリウスとはいきませんが、少しでも、良いドライブ感を求めてほしいものです。そうしたら、もっと乗りたくなると思いますね。

頂いたオーナーに悪いですが、彼もその事は良く解ってあったので、最初からトランペットがすきになったら買い換えてくれとの話でしたが、今では、頂いた物は大切に保管してますが、もう別物です。同じ形をした別の物です。音は鳴りますよ。音階も吹ける。でも、全く違う物です。楽器はこういう違いが明確に出てくるのかもしれませんね。ヨットはまだあいまいさがあるかもしれません。でも、状況が悪ければ悪い程、明確に出てきます。どうせやるなら、でかいヨットより、良いヨットに乗りたいと思います。もっとセーリングのドライブ感にこだわっても良いんじゃないかと思うんですが。

次へ     目次へ