第二十九話 シングル/デイセーリング

シングル、デイセーリングのヨットがあっちこっちから出てきました。これがいかに需要が高まったいるかの証拠でしょう。時代は次の変化をもたらしています。それらは決して外洋艇やキャビンヨットを否定するものではありません。ただ、これまでにない新しい需要を喚起した。いや、本当はそういうイージーセーリングへの時代の変化が既にあり、そこに投入されたシングルハンド/デイセーラーヨットがマッチしたと言うべきだと思います。

たくさんの外洋艇がありますが、みんながみんな外洋へ行きたいわけじゃありません。たくさんのキャビンヨットがあり、でも、みんながみんな、ヨットに宿泊したり、そういう使い方を好むわけではありません。何をしたかったかと言いますと、セーリングを堪能したかった。しかし、これまでは、そういうヨットはレーサーの物だった。気軽に、シングルでハイパフォーマンスを堪能する事はできませんでした。そういう需要は確かにあったのだと思います。毎周末にヨットに泊まりに行く。リゾート気分でマリーナも華やか。でも、誰もが望むわけではなかった。もっと気軽にセーリングの醍醐味を楽しみたかった。そういう事だと思います。キャビンヨットはどんどんキャビンが大きくなり、ますますそういう次元からは離れていきます。レーサーでも無い、キャビンヨットでも無いヨット、それが今のデイセーラーです。

ロングを走れば、必ずと言って良い程、1日か2日ぐらいは時化に出会う。そんな事してまで遠くに行きたくない。本格外洋なんてまっぴら、かと言って、近場の海岸線沿いを走る時、目的地がある時はエンジンで行くのが大半。アメリカでも同じです。それにキャビンに寝泊りなんかあまり考えない。レースも嫌だ。そういう方々が純粋にセーリングを、シングルでも簡単に動かせて、ハイパフォーマンスを楽しみたい。そういう方々がおられて、何の不思議も無いのですが、これまではそんなのは無かったわけです。

そこで見つけたのがアレリオン28、こういう希望の方々にピッタリ一致しました。そして需要が増え、増産、そこに他の造船所も目を付け、様々な造船所から、いろんなサイズが生み出されてきます。考えてみれば、こういう乗り方というのは日本にピッタリなのではないかと思います。もちろん、外洋を目指す人も居ますし、キャビンヨットを楽しむ人もおられる。でも、海外の連中に比べれば、キャビンヨットを楽しんでおられる方々は極めて少ないです。それでボリュームも大きいので、一人で出すには無理があり、クルー不足の今日、なかなか思うようには出せない。海外のように家族が来る事も少ない。そうなりますと使用頻度は極めて少ないわけです。そんなものと諦めておられるか、年に数回使うクルージングで満足されているのかは解りませんが、何とかもっと気軽にセーリングを楽しみたいと思う方々が多くても不思議では無いように思います。何とかしようと思う方がおられたら、そういうヨットがほしいと思う。でも、そういう方々でも、キャビンの天井は立てる高さ、シングルで動かすには例えば30フィート以下、キャビンも充実していて、快適さを求められます。

でも、ここに、思い切って割り切ったヨットが出てきた。ハンドリングはイージー、それに反するキャビンは天井低く、重心を下げ、デイセーリングには充分なシンプルな内装をもってきた。今まで当たり前と思ってきた、冷蔵庫、温水、シャワー、電動の清水ポンプ、ガスコンロ、オーブン、そういう物が一切撤去されました。考えてみれば、これらもまた日本ではあまり使われていない物ばかりです。冷蔵庫はそこに寝泊りしてはじめて役に立つ、マリーナに来てスイッチ入れても冷えないし、セーリング中ずっとエンジンかけてないとバッテリー上がりが心配になる。アイスボックスの方が役に立つ。温水だって、使わないし、シャワーは冬なら有り難いが冬にシャワーを浴びる事も無い。清水ポンプだって、マニュアルでも充分使える。冷静に考えると、それで充分だし、無ければ壊れる事も無いので、メインテナンスも少なくて済む。

一方、セーリングの方は、シングルでよりハンドリングしやすい艤装が施され、コクピットに集中し、
キャビンの低さは船体の重心位地を下げ、さらに高いバラスト比はシングルでの帆走を容易にしてしまう。現在のキャビンヨットの反対側を向いてます。それで、簡単セーリングが可能で、帆走性能も高い。まさしく、セーリングそのものを楽しむ為に、クルー無しでも、簡単に出せて堪能できる、そんなヨット達です。キャビンヨットを使わない日本からいち早く出てきてもおかしくないコンセプトではないかと思います。

それは兎も角、そういうコンセプトが日本には合うという考えで、研究、紹介、輸入販売をしています。これらのヨットに、もうちょっと天井が高ければと要求してはいけません。私もかつてはそうでした。もし、そうしたら、せっかく割り切った気持ちが台無しになり、セーリングに影響を与えます。
彼らは、デザイナー達は充分な検討を重ねたうえで、建造しています。そのコンセプトを読み取る事が大事です。

ここにはキャビンライフはあまりありません。主はセーリングです。気軽なセーリングです。セーリングを楽しみたい方は是非検討してください。

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