第六十四話 変化

我々は変化を求めています。どんなに良い暮らしをしをしていても、単調な暮らしには、何か刺激を求めます。その変化さえも、レギュラーになったら、それさえも単調さの枠組みに入れられてしまう。それでまた変化を求めて、さまよう事になります。楽しい、面白いも変化だと思います。それらが日常になった時、変化は変化ではなくなる。計画して、いつもそこにある時、変化は変化では無くなる。

変化を求めて別荘を買う。それは環境の変化でしょう。でも、その別荘で、毎日の暮らしと同じ事をしていたら、飽きてしまう。それで、違う環境を散歩したり、何かを見つけたり、食事もご飯と味噌汁ではなくて、違う食材を使ったり、変化を演出します。或いは、そこでテニスしたり、その地独特の何かを楽しんだり、兎に角、日常とは違っていなければなりません。でも、その変化は大きすぎても困る。適度でなければなりません。

変化を求めた時、予想できる事と予想外の事が半々ぐらいが良い。どちらかが大きすぎても、面白くなくなる。別荘に行って、そこにあるはずの別荘が無かったら、これは大きな予想外。面白くは無い。でも、行った先で、何か面白いイベントや、施設ができてたり、何かがあると面白い。でも、外部にばかり頼ると、そのうち何も変化が起こらなくなる。

ヨットを2,3年おきに、係留するマリーナを変える人が居ました。これは変化を自分で演出しています。これもひとつの方法でしょう。たまに、レースに出る。これも良い。たまに宴会する。これも良い。たまにヨットに泊まる。これも良い。たまに遠出するこれも良い。しかに、全部”たまに”です。
では日常の変化はどうするのか、その変化が無いと、ヨットには乗れません。乗る理由も無い。
それで、セーリングしても、それだけでは変化は無い。何故なら、ちょうど良い天候の時しか乗らないからです。乗っても、意識がセーリングしていないからです。

意識をもってセーリングすると、動きが気になる。セールが気になる。それであれこれ扱うと変化が感じられる。それでまた扱う。良い走りになると気分が良くなる。でも、また風は変化するので、また扱う。意識がセーリングしていると変化だらけなのです。それも予想外の事ばかりでは無く、半分半分です。ちょうど良いのです。ヨットを日常の変化として遊ぶには、意識してセーリングする。それだけで充分なのではないでしょうか。意識する事によって変化を感じ、そうすればもっと良い走りをと思う。それで良いじゃないかと思います。初心者だろうが、ベテランだろうが、意識すれば変化はある。その変化を受け取り、コントロールして、新たな変化を生み出す。強風になれば、誰でも意識します。しかし、ピクニックセーリングから強風になってきたら、強制的に意識させられるわけで、求めたわけじゃない。でも、元々意識してセーリングしていたのなら、違うんじゃないでしょうか。

セーリングが好きな人は、走り出してもちょこちょこ何かを扱いますね。面倒くさそうと見えるかもしれませんが、そんな事が面白いにつながる事をしっているから、本人は面倒くさく無い。面白いからやってるだけです。ある人はシングルハンド一辺倒。めったに誰かを乗せません。いつも一人。
この20年近い間で、一回だけ一緒に乗った事があります。それも誘われてでは無くて、お願いしてです。一緒に、そこに居ても、それじゃ行ってくると言って、一人で出かけられます。それは、誰かと一緒だと、話をしなければ、黙っていたのでは気が疲れるからです。でも、その一回はセーリングの話しかしませんでした。

人は変化を求めながら、同時に安定をも求めています。それはその時の気分次第で振れるのでしょう。セーリングは変化、キャビンは安定、両方を持つヨットにどんな割合を求めるかは自分次第。
陸上は安定、海は変化、家は安定、外は変化、全てはどちらかに属する。どちらか一方という事には無理がありますので、そのバランスという事になります。このバランスを取る時、どこに支点を置くかという事になります。陸上と海というバランスを取るならば、ヨットは変化のみでも満足でしょう。
ヨットだけを考えると、セーリングとキャビンの割合をどう取るかになるでしょう。そして、セーリングそのものにも、安定と変化があります。人は安定すれば変化を求め、変化が過ぎると安定を求め、行ったり来たり。それを楽しむのが良いと思います。変化が自分のコントロール内にあると感じた時、まだスリルを楽しめる。コントロールを超えそうになったら、不安を感じ始める。不安を感じはじめたら、さっさと帰りましょう。でも、キャビンに居る限り、スリルも不安も無い。安定のみです。
セーリングは元々不安定ですが、自分が慣れてくれば、安定の幅が広がる。するとスリルの幅も広がる。それでも、自然は無限ですから、全てが安定する事は無い。変化の宝庫です。その変化の経験したい度合いを自分でコントロールできる。それがセーリングです。湾内だから、ベテランには物足りない? そんな事はありません。湾内であっても、波は高く、強風もある。いかようにも変化を楽しめる。不安になったら、すぐ帰る事もできます。

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