第六十六話 エネルギー 

人間の持つエネルギーは気のエネルギー、それは膨らんだり、しぼんだりしますが、膨らんだ時には冒険を求め、しぼんだ時は安定を求める。膨らんだ時には多少のスリルをも楽しむ事ができ、しぼんだ時はスリルは不安でしかない。

まずヨットに乗るなんて事は、ある一定以上のエネルギーをもっていないとできません。海という不安定な場所に出かけようと思う気持ちは、気力がある程度無いと、その気にはなれないものです。
それだけではありません。ヨットの持つエネルギーというものがあります。誰もが安心して乗れる波と風では、みんなが楽しい思いをしますが、それからだんだんと風が上がっていくと、ヨットによっては、ヨットのエネルギーが及ばない場合は、人間のエネルギーでカバーするか、それも一杯なら、不安が出てくる。でも、ヨットのエネルギーにもっと余裕があるなら、その強くなった風の中でも、人は不安感を抱く事無く、セーリングを続ける事ができる。そして、この時は、もっと面白いセーリングが可能となります。

つまり、セーリングは人間の持つエネルギーとヨットの持つエネルギーの総和で、どこまでやれるかが決まると思います。人間のエネルギーはその時の気分にもよりますし、過去の練習によって、増幅する事もできます。しかし、ヨットの持つエネルギーは変わらないので、人間次第という事になりますが、ヨットの持つエネルギーが大きければ、それだけ、人間は不安感無く、よりスリリングなセーリングをも楽しむ事ができます。

以前、ノルディックフォークに乗せて頂いた時ですが、そこそこ風は吹いて面白かったのですが、このヨットのエネルギーはもっと大きく、余裕でした。もっと吹いても面白いだろうなと感じた次第です。ヨットのエネルギーは見えない。しかし、それは船体の剛性から来るだろうし、波に叩きつけられてもビクともしない強さにあるだろうし、強風にでも強い安定感にもある。それら総合において、そのエネルギーはオーナーに安心感を与えてくれます。

ヨットが与えてくれる安心感は、オーナーを守る。オーナーはヨットに守られて、安心した中で、風と波に遊ぶ事ができる。守られている安心感は、強風の中でそれを感じられると、スリルを面白く遊ぶ事ができます。これは無謀では無く、直感的に感じられるものです。そのうえに、自分のエネルギーがあります。それを楽しむ余裕は、何ともヨットの醍醐味が感じられる。ヨットの高いエネルギーはオーナーを支えてくれます。

外洋を走る時、ヨットの持つエネルギーが頼りです。人のエネルギーは上がったり、疲れはてて下がってきたり、変化するものです。そういう時、ヨットが頼れるというのは、何とも頼もしいものです。
ヨットの違いというのは、そういうもんだろうと思います。どれだけのエネルギーを持って、信頼できるかではないかと思います。それは見えないエネルギーです。その見えないエネルギーを見る必要があります。それによって、自分のヨットへの信頼度が決まり、乗り方のスタイルも影響を受けるでしょう。

ある車好きの話ですが、エンジンの馬力だけすごくて、いくら速くてもいけないらしい。それに伴うボディー剛性と、それを制御できるブレーキ性能が伴う事が必要らしい。それと同じですね。その上にドライバーのエネルギーが加わるわけです。

ヨットの性能とはそういう事でしょう。ヨットを味方につけておかなければ、遊べる範囲が狭まってきます。自分のエネルギーだけで勝負するには、相当な冒険家がする事だと思います。冒険はしますが、危険はしない。それが遊びのモットーです。スリルは味わうかもしれないが、危険はしない。
高いヨットのエネルギーは、その分だけオーナーを安心して遊ばせてくれます。

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