第七十二話 デイセーラーの新しい認識

昔のデイセーラーという認識は、今とは全く異なります。昔のそれは、キャビンが全く無い、いわゆるディンギーよりちょっと大きいぐらいのヨットでした。でも、今では、いろんなビルダーがこのジャンルに注目し、デイセーリング向けに開発してきています。この新しいデイセーラーの特徴は、日常のセーリングをショートでもシングルでも手軽にセーリングを堪能できるという事です。それも抜群な安定性を確保し、艤装の配置、操作のし易さを研究しています。さらに、デイセーラーと銘打つ事によって、従来の大きなキャビンに迎合する事無く、このヨットは今までのヨットとは違うというコンセプトを明確に打ち出しています。それはデイセーラーだからと言えますが、本当はデイセーラーですと宣言する事によって、その分、キャビンを盛り上げる事によってセーリングを犠牲にしてきたのが、もはやその必要性は無くなった。つまりはセーリングを中心に据える事ができたわけです。

キャビンをでかくすると、その分セーリングが犠牲になる事は誰もが解っていた。しかし、市場が大きなキャビンを求めているなら、そう思って各ビルダーは大きなキャビンを競ってきた。それが重心を引き上げ、風圧面積を拡大する事になっても、大きなキャビンが求められているならと、そっちに向かった。しかし、時代は新しい時代に変化してきています。

ヨットに住まない人にとって、あんな大きなキャビンは不要どころか、扱いにくい。それに遠出と言っても、外洋では無く、沿岸でもある。そうすると、大きなキャビンを持つより、もっとセーリングが面白い、扱い易いヨットが良いと思う人が居た。そういう彼らは、アレリオン28に向かった。彼らにとって、この小さなキャビンは他と比較するとすごく狭く見えた。でも、抜群の安定性とシングルでの使いやすさは魅力的である。躊躇する人も多かった。でも、何人かの勇気ある者はアレリオンに行き、そして、徐々に、それを見ていた周りの人達もそれを支持するようになってきた。それでアレリオンはアメリカで人気が出て、昔、ニッチ市場だと言っていた人も、その市場の拡大には驚いているだろう。

それでいろんなビルダーから、この新しい市場にヨットを進出させていきます。同じコンセプトではありますが、ちょっと違う。何が違うかと言いますと、簡単に言えばサイズです。このサイズ違いは
デイセーリングだけなら小さくても良いだろうが、たまのちょっと遠出の沿岸クルージング、もちろんそんなに遠くは目指さないが、それをも含めると、もうちょっとサイズがほしいという人達も居たのでしょう。サイズが大きくなっても、使いやすくする為に、電動ウィンチを標準にしたり、セルフタッキングを標準にしたり、そういう事を考えています。

つまり、80%か90%はデイセーリングで高い帆走性能をショート又はシングルで気軽に堪能し、残り10%か20%は沿岸のクルージングにあてられる。決して長期では無い。そういう意味では、日本の殆どの使い方にピッタリ合うではないか。そう、アメリカ人だって同じ。彼らも、まだメジャーでは無いだろうが、そういう連中が増えている。

今までは、クルージング派は本気でセーリングをしてこなかったのではないか。それが、クルージング派ももっとセーリングをしようというメッセージです。クルーが居なくても大丈夫、ヨットである限りセーリングそのものを味わった方が面白い。その為にヨットを手に入れたんですから。それに、前にも書きましたが、ヨットはただ乗れれば良いというもんでは無いと思います。ヨットは練習して、うまくなっていく必要がある。そういう道具です。例え、プロにならないにしても、うまくなる過程を楽しんでいくものであると思います。何故なら、スポーツだからです。

ヨットを他の何かをする手段とすり違えた時に、ヨットはヨットとしての面白さを無くして行きます。ヨットをヨットとして楽しむには、常にセーリングを念頭に入れて、セーリングそのものをスポーツするのが良い。後は、その合間の癒し、付加価値だと思います。

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