第七十九話 キャビンの使い方

日本にヨットが今一定着しきれない理由は何かと考えますに、恐らく、キャビンヨットが多いにも関わらず、キャビンで遊びきれないという事ではないかと思います。欧米人が世界を回っているとは言っても、大半はキャビンで過ごす人が多かったり、近場をたまにセーリングしたり、そういう使い方の方が圧倒的なのではないかと思います。それはそういう使い方が最も快適だからではないでしょうか。人間は快適生活に慣れ、便利さに慣れ、何をするにしてもつい快適さを求めてしまいます。それは、快適キャビンで過ごす事です。欧米人はそのキャビンライフを楽しむ事ができた。ですから、それに見合うヨットが大量生産されています。もうひとつは、マリーナ環境にも起因すると思います。外国のマリーナは、周辺に面白い物がたくさんある。ぶらぶらしていても結構楽しい。

ところが、日本人はどうもそのキャビンライフを楽しむ事ができていないように思えます。これさえ、できれば日本にはもっともっとヨットが増えてもいいはずです。係留料が高いとか、そんな理由も考えられますが、最大の理由はキャビンライフを楽しめない事ではないかと思います。ですから、たくさんのヨットがありながら、週末にヨットに泊まる方々は少ない。

日本人にとって、キャビンでぶらぶら過ごす事にあまり面白さを感じていないのではないか。たまになら良い程度です。考えてみた、面白そうな気がした。しかし、実際は、そうでも無かったのが現実ではないでしょうか。私が知る限り、マリーナにしょっちゅうくるオーナーはたいていはセーリングを楽しまれる方々です。キャビンで過ごすのを楽しみに来る方は少ない。セーリング+キャビンでしょう。或いは、セーリングのみです。キャビンのみという方は少ない。

だとすれば、セーリングは面白い、キャビンはたまになら楽しい。キャビンはセーリングをする事によって、その癒し空間として役には立つ。しかし、キャビンだけが独立して、そのまま楽しいというレベルにまではいかない。でも、欧米人はそれを楽しむ。基本的に違う。文化の違いでしょうか。
ならば、日本人がヨットを楽しむ方法は、第一にセーリングを置くべきと思います。

セーリングしようと思ってマリーナに行きます。天候のせいで出れなかったので、頭を切り替えて、キャビンやコクピットでお茶でも飲んだり、メインテナンスしたり、回りの方々とおしゃべりを楽しんだり、これらはみんなセーリングをしにきたが理由があって出れなかった。これが前提です。最初からキャビンで寛ごうと思ってきているわけでは無い。これが大事な所です。もちろん、セーリングに出れれば出る。当然です。キャビンは使おうと思って、それが理由で来る時は、最初から仲間と宴会を予定している時です。それ以外は、セーリング目的でマリーナに来ます。そしてついでにキャビンは使われる。キャビンは二次的に使うのが良かろうと思います。そうしますと、案外、今まで以上にキャビンも使えるのでは無いでしょうか。

キャビンで過ごすだけでは、日本人には使えません。読書をする目的か、何かキャビンでする。その何かが必要です。そうしないと、キャビンに来る理由が無い。理由が無ければ来ない。来なければセーリングもしない。セーリングが目的なら、理由は明確です。それができない時、キャビンで過ごす。そういう時はあえて理由はいりません。ついでみたいなもんです。コーヒーでも入れて、コクピットに座ってるだけでも、案外こういう場合は過ごせるんですね。ですから、キャビンは第一にしてはいけません。第二です。

日本人にキャビンヨットは合わない。セーリングヨットこそ日本人にとっては面白い。全く同じヨットであっても、そういう意識も持ち方をしますと、意識はセーリング第一です。ですから、必要以上に私物は増えないし、セーリングのしやすさを考えてます。キャビン偏重にはならない。もちろん、俺は違うという方はもおられるでしょう。それはそれで結構です。楽しければ良い。楽しい自分のスタイルを見つけてほしいと思います。ただ、全体を見渡すに、第一セーリング、第二キャビンに置いた方が、かえってキャビンも生きるのではないかと思うわけです。

だからと言って、キャビンはどうでも良いとは言いません。それは個人の価値観に従ってキャビンを整えれば良いと思っています。でも、やっぱり第二にした方が良いという考え方は同じです。

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