第十一話 質を高める 

誰でも質が高いのは大歓迎だと思います。車でも服でも、家でも、質の高い物は確かに良い。質はその目的の用途を軽くこなし、さらに使う人にとって用を成すという以上に、プラスアルファの心地良さや耐久性を与えてくれます。ただ、当然ながら、そういう製品を作るには良い材料と良い職人の腕が必要になり、必然的に高価になっていきます。この値段は、その物がもたらすプラスアルファをどう評価すかによって受け入れられたり、受け入れられなかったりします。

今度は使う側がどう質を高めるかという事を考えてみます。物には代価が必要ですが、この使う側の質の向上には代価は要りません。ならば、良い使い方、質の高い使い方を工夫して、そのプラスアルファの恩恵を自分で受けるというのは、悪い話ではないだろうと思います。

ヨットを使う側が質を高める。使う側はまずは、ソフトに関わる事になります。どう使って質を高めるか?コンピュターのソフトの質は、使い易いソフト、効率が良い、速いなど、ハード性能を最高に高める。そしてそれができるだけ複雑な事をしなくてもできる。そういうものではないかと思います。
ヨットにはただ、セーリングするだけなら、どんなヨットでも良いわけですが、質を高めるとなると、そのヨットがどんな性能を持っているのか?まずはそのコンセプトを知る事が必要かと思います。

ハードの面においても、オーナーができる工夫はあります。メインセールのスライダーを交換して、上下をスムースにする。レージージャックをつけたり、整備を施したり、これらは使い易い工夫です。それは質の向上を図る上において役立つものだと思います。そのうえでどうやるかでしょう。

クルージング艇ながら、スピードを求める。或いは、動きのスムースさを求める。自分なりの課題を持つ事から始めるのが良かろうと思います。スピードを求めるには、セールの伸びが無い、セールカーブを整える、開き具合を求める、ジブとメインのコンビネーション、マストのチューニングも出てきます。それらを学びながら、より良い形状を求めていく事は、結果としてスピードに反映していきますが、求めているのはセーリングの質の向上に他なりません。これはスピードが速いというだけでは無く、質の高い走りをしているという事になります。風は効率良くセールを流れ、船体はできるだけ抵抗の無いように海面を流れる。ただ、動いているのとは違います。質が高い走りです。すると、何が違うか、気分が違う。これはとっても重要な事です。質の高い気分は、上質の服を着て、その着心地が良いのと同じ、最後は気分なのです。

使い易い工夫や、自分のスムースな動き、無理の無い動き、たとえそれがゆっくりした動作であっても、無理が無い動きはスムースであり、無駄が無く、疲れにくく、最低限の労力で最大の効果を得る事です。この事は艇速にも反映していきます。つまり、効率の良いスムースな動きと適切な操作は自分にとって、最も効率がよく、ヨットが速くなる。これを外から見ていると、きっと美しいセーリングだろうと思います。遊びながら、セーリングを意識しながら、ゆっくりとマイペースで、練習していきますと、必然的に美しくなる。ヨットのプロになるわけじゃなしと思われるかもしれませんが、これはプロになる練習では無く、ヨットを遊ぶ為に、ヨットのエッセンスを味わう為には、必要な事だと思います。そうしなければならないわけではありませんが、そうすれば、セーリングの質はぐんと高まると思います。つまり気分が高揚するという事です。

速い、遅いは相対的ですから、絶対スピードで他に負けるとしても、自分のペースで少しづつ、遊びながら、意識はセーリングにおきながら、より質の高いセーリングを目指していくというのは、かなり面白いセーリングをする事になります。0.1ノットスピードが上がったからどうだ、と言われれば、たいした事無いと言えばその通りかもしれません。しかし、その0.1ノットを求める、必死に求めてはいけません。余裕を持ちながら、遊びながらですが、面白がってやるところに、そこにある自分の気分が良くなる。それが目的です。

ある老夫婦、外国の方ですが、動きはゆっくり、舵を持つ人はクルーの動きを見ながら舵を切る。
タックして、ウィンチを2,3回回すだけで、しかも力もそんなに要らず、実に動きに無駄が無いし、力も入っていない。こうなると楽にセーリングができる。こういう質の高いセーリングは楽で、楽しい。ちょっとの労力で、最大の効果を得てます。ヨットと格闘せずに、遊ぶ事ができる。そうすると、気持ちは風や波などを楽しむ事ができます。これをスイッチひとつの全自動機械を使ってやる事もできるでしょう。でも、自分でやって楽しんでる方が面白い。それにたいした力も不要なら、実に良い。是非、質の高いセーリングを目指して、遊びながら練習して、どうやれば良いか試行錯誤しながら、学んでいくと、そのうち実に滑らかになるでしょう。それは若いマッチョマン達が動かすヨットとは違う。味のあるセーリングですね。若い人は若い人なりの、年寄りは年寄りなりのセーリングの仕方がある。力をあまり必要としないセーリングの仕方など、自分で工夫して、楽にセーリングを楽しむ方法を創造していく。この創造のプロセスが機械ではできない、人間にしかできない事であり、それを楽しむ事も人間にしかできない事です。

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