第二十二話 デイセーラーの違い

デイセーラーと呼ばれるヨットと、キャビンヨットの違いは何でしょうか?ここのところをちょっと考えてみます。もちろん、キャビンの大きさの違いは明らかですから、それ以外に絞って考えます。

まずは、当然ながら、キールを除いた船体自体の重心が極めて低い。つまり重心が低いという事になります。それに加えて、キールの重さが全体のだいたい40%前後、中には50%以上というのもあります。つまり、第一の特徴は全体重心が非常に低いという事です。

マストですが、全てフラクショナルリグですね。何故でしょうか?そのひとつはマスト位置を前側に設定して、ジブセールを小さめにして、メインセールを大きくする。ヨットのデータのJはフォアステーからマストまでの長さ、Eはブームの長さを表しますが、Eの方が長くなってます。つまりジブとメインのフットの長さはメインの方が長い。おまけに、メインはマストトップまで上がりますが、ジブはトップからずっと下までしか上がらない。明らかにセールの大きさが異なります。これはシングルセーリングを設定して、タックなどの作業が容易になる。メインセールはセルフタッキングですから、簡単、
後は、セールコントロールをメインセールを主に行う。第二の特徴です。

最近のヨーロッパ系のヨットにはフラクショナルリグが多い。でも、そんなに大きなフラクショナルでは無く、フォアステーの出口はマストトップからちょっと下ぐらい。デイセーラーの場合はかなり下からフォアステーが出ています。低い重心で、より風に対するキャパシティーが大きいので余裕がありますが、それでももっと風が強くなってきたら、セールをリーフする必要が出てきます。でも、その前に、セールをフラットにしてドラフトを浅くする事によって、走れます。車のトップギヤに入れるのと同じ事です。パワーを抜いてやる必要がある。これはバックステーを引く事によて、マストを曲げる事によって簡単に達成できます。ですから、大きな比率のフラクショナルにして曲げやすくしている。そうでないのは、バックステーアジャスターを引いて曲げるのに相当な力が必要になり、テークルを増やして対応する事になります。もちろん、このバックステーアジャスターも標準でついてくるのが当たり前。第三の特徴はマストコントロールがし易いです。
マスト曲げるなんか、と思われるかもしれませんが、やる作業は簡単、たいした事は無いんです。
それで、ギヤをトップに入れる。車を走らせて、ある程度スピードが出ると当然ギヤはトップに入れます。セダンでもそうします。これと同じ事です。トップに入れた方が良いんです。セールのドラフトが深いと加速する時とか、波があって、スピードを殺されるとかの場合はパワーが必要ですから、
ギヤはローに、一旦スピードが上がってきたら、ローギヤからハイに入れないと、パワーはヨットがヒールする力ばかりになり、上手く走れない。それじゃ、この時、トップギヤに入れずに、セールを小さくリーフしていきますか?そういう事です。そういう前提がきちんと考えられています。

コクピットの配置を見てみましょう。最も特徴的なのは、メインシートのトラベラーの位置です。多くが、コクピットの舵の前にあります。或いは、舵より後部に設置して、メインシートだけは、舵の前に
設置というのもあります。この事は、舵を握ったまま、もう片手はメインシートに手が届く、そして、ブローが入った時なども瞬時に風を逃がしたりできる。舵を持ったままです。これが遠いとそうは行きません。メインセールがこの走りの主ですから、そのメインセールをコントロールするのに、いかに
楽にできるか、そういう配慮がなされています。メインセールだけではありません。全てのコントロールに手が届く。第四の特徴は艤装の配置です。

船体デザインについて見ます。特徴的なのは幅が狭いという事です。幅が狭いと、必然的に船底形状はフラットでは無く、少し海水に深く入ります。この事はスピードという面だけを考えると、プレーニングしにくい船型です。比較で言いますと、遅くなるという事を意味します。でも、メリットもあります。乗り心地は良くなるという事です。あくまでレーサーでは無いので、これも大切。
 バウを見ますと、ステムが垂直におりていない。オーバーハングがあります。これは水線長を稼ぐなら、オーバーハングが無い方が良いのですが、これもレーサーでは無いので、オーバーハングを設ける事によって波がデッキ上にあがりにくい設計でもあります。第五の特徴はこれら船体のデザインにあります。

こうして見ていきますと、デイセーリングはセーリングを楽しむ為にデザインされたヨットですので、スピードを求めます。でも、同時にシングルでの帆走を前提に考えてますので、使いやすさ、それにスピードを犠牲にするかもしれないが、乗り心地なども考慮されています。セーリングを楽しむという点に、レースでは無い、セーリングの面白さを味わおうと考えた場合、こういうヨットは理想的ではないかと思います。ただ、その為に何かを差し出す必要がありました。それはキャビンです。
それが今日のキャビンヨットとは対称を成すものです。

どちらが良いかは選ぶ側が選択する事ですから、自分に合ったヨットを選ぶのが良いわけで、どっちが優れているという事はできません。比較の対象には本来はならない。コンセプトの違う同士を比較しても意味はありません。スポーツカーとキャンピングカーのどちらが優れているかというのはセンスを得ていません。セーリングを楽しみたいなら、デイセーラー、シングルで気楽に出したいならデイセーラー、でも、キャビンで寝泊りしたいならキャビンヨットでしょう。でも、デイセーラーでセーリングを堪能して、キャンプ気分でキャビンに泊まるか、エアコン付きで快適に過ごすならホテルという手もあります。

とにかく、デイセーラーはシングルでも気軽にセーリングを堪能しようと考えられたヨットです。外洋艇は外洋を走る時に差をつけます。キャビンヨットは快適なキャビンを提供しようというものです。
それぞれ専門が違いますから、それに応じた選択をするのが良い。外洋艇はデイセーリングでもできます。しかし、デイセーラー程の気軽さとか、シングルとか、スピード、操作性は期待できない。一方、デイセーラーで寝泊りもできますが、キャビンヨット程の快適さは期待できないし、外洋艇のように大量の荷物を積む事もできない。キャビンヨットは快適なキャビンが満喫できますが、デイセーリングのような帆走は期待できないし、外洋艇のような時化を耐え抜く事も期待できない。みんなスタイルが違います。みんな違って、それで良い。

それで、外洋艇の特性を求めるのか、キャビンヨットの特性を求めるか、或いはデイセーラーの特性を求めるか、そこでジャンルを絞って、その同じジャンルの中で、同じコンセプト同士で、比較検討するのが良いと思います。自分とは合わないスタイルにすると、そのヨットがそのコンセプトにおいてどんなに優れていても、合わないものは合わないんですから、どうしようも無い。ですから、コンセプトをきちんと把握しましょう。でも、この忙しい時代、ちょっと来て、さ〜っとセーリングを遊んでこられる気軽さは、お奨めです。

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