第八話 セーリングは面白いのか?

セーリングして、何が面白いのか?本当にキャビンで寛ぐより面白いのか?ロングの旅より面白いのか?そういう疑問が沸いて来ます。ひとつ確実にいえる事は、セーリングは他では代用できないという事です。

キャビンは快適な家には敵わない。ただ、ヨットであるというニュアンスが違う。旅は車でも、電車でも、飛行機ならあっという間に世界を回れる。ただ、旅のプロセスは違います。旅と言っても二種類ある。沿岸の旅は目的地志向だし、それなら、車でも行ける。ニュアンスは違いますが、主たるものでは無い。ロングの旅は同じ旅でも、プロセスも重要になる。いかに行くか。このプロセスにおいて、代用は無い。

突き詰めれば、ヨットの特性を楽しむにはロングの旅のプロセスか、セーリングにしか無い。どっちにしてもセーリングしている事は事実です。でも、ちょっと違うのは、同じセーリングでも、ロングは目的地があるので、どうして早く着きたいと思う。でも、ただセーリングしている場合はいかにセーリングするかに重点を置く。

セーリングを遊ぶには、気軽に出せる感覚でないといけません。さっと出せる事は重要な要素のひとつです。そしてセーリングが面白く無いと、さっと出そうという気にもならない。

セーリングは感覚の遊びだと思います。知性のゲームでもありますが、最終的には感覚の遊びだろうと思います。だから面白いとも言えます。セールシェイプを整える為に、シートはどうするか、トラベラーは、バングは、アウトホールは、バックステーはどうするか、その組み合わせをどうするか、知性のゲームです。そして、これがうまくいかないにして、多少セール形状が理想的で無くても、ヨットはちゃんと走ってくれる。そこに波が来て、ブローが来て、刻々と変化する環境で、いろいろ操作をする。しなくても走るし、すればもっと走る。それが滑らかであればある程、気分は上々、自分で操作して、自分が走る。エンジンとは全く違います。操作ひとつで、スピードが違う。この感覚は例えば、何かを食べて、うまいというのと同じです。

食事は腹を満たすものですが、満たせば何でも良いという昔の飢えた時代ではありません。うまい方が良いわけです。セーリングも同じで、動けば良いという時代ではありません。うまいに代わる言葉がありませんが、面白いという感覚である必要があります。それは自分で操作して、感じ取る事ができます。”うまい”と同じように、GOODがあります。このうまいを求めて、あっちこっちのレストランに出かけるグルメと称する人も居ますが、たとえ家庭で食事するにしても、うまい方が良いわけです。それに、盛り付ける皿も何でも良いわけじゃない。その食事に合った皿、盛り付け方、見た目でも美しい方が気分は良い。それと同じように、セーリングにおいても、GOODを求め、BETTERを求め、BESTを求める。よりスムースで、無駄が無く、そんな感覚を求める。GOODがBESTになった時、何とも言えない感覚になります。そして、それは誰でもその気になれば味わえて、決して腕の差では無いと思います。自分の感覚的バランスが取れた時、誰でもBEST感覚を味わえます。それは食事の味に対して、どれだけ深く入ってるかにもよるのと同じで、人によってBEST感覚が違う。だから良いんです。

食事の見た目も気にするように、ヨットも美しい方が良いし、きれいに磨かれている方が良い。その盛り付けられた皿も、食事に合うように、食事をさらに盛り立てるように、セーリングにも、それに合うヨット、GOODに達し易いヨットがある。それはBETTERにもBESTにも発展します。GOODに行き着けないとBESTには行けない。

たった、2時間か3時間、美しいヨットでセーリングをして、知的遊びと感性の遊びをしてみませんか、美しいヨットで。これさえ味わえば、もう充分という気になるでしょう。グッドフィーリングを目指し、それをさらにベターに、うまく行けばベストにまで行ける。こんなのはヨットにおけるセーリング以外には無い。それも近場でセーリングする方が良いんです。遠くのレストランに出かけて、うまい食事をするというのも良い、でも、家で食べる料理がまずかったら、人生楽しくありません。家で食べる料理こそうまいものでなければなりません。

まあ、とにかく、そんなに気にしないで、カッコ良く、気軽に、さっとセーリングに出ましょう。そして、2,3時間ばかり、セーリングしてきます。その日によって、微風も程よい風も強風もあるでしょう。それにできるだけ合わせて、うまく風に乗る。そういう事を続けていけば、体は自然にヨットに慣れ、馴染むようになり、どんどん上手くなって、やがては自由自在に、操っていけるようになります。
同時に、感覚ゲームはUPとDOWNの両方を味わいながら、感性を磨いていく。こんな面白い事が他にあるでしょうか。キャビンは楽しいかもしれない、でも、セーリングは楽しいばかりか、もっと面白いんです。次元が全く違います。その次元が違う面白さを味わおうというんですから、その為に必要な事は、自分がもっと面白い事を味わおうと思う事、それだけです。多くの人達はそうは思っていない。或いは、足元にそんな面白い事がある事に気づいていない。欧米人はやっとそれに気づいた。ヨット好きがセーリングに面白さを求める事は当たり前と気づいた。それでデイセーラーが生まれた。

面白さを実感するという事は非常に重要な事です。それも自由自在にです。面白いという感覚を得ると、気持ちがおおらかになる。余裕ができる。それは生活全てに潤いを与える事になります。ですから、楽しむ事に妥協してはいけません。得る物もそがれてしまう。常に、今できる最高を求めて、楽しみましょう。ヨットが最高に面白くなると、全てが楽しくなって、そうでも無い事には寛容にもなる。良い事だらけです。好ましい事はもちろん、好ましく無い事にも寛容で居られる。それは人生を豊かにする事になります。物質で囲まれたこの時代、それでも心は満たされないと言う。それは
面白い事を制限し、妥協し、他人と違う事を避け、人と同じようにしてきたからです。それが正解だと信じてきたからです。でも、そうでは無かった。今必要な事は本当に心から楽しむ事です。それにはそうしようと思う事です。そして、そのひとつの方法は、自由自在にセーリングして堪能する事です。他にも方法はたくさんあるでしょう。でも、ヨットやるなら、最高に楽しむなら、セーリングは最高の手段だと思います。何故なら、知性も感性も、人間の持つ両方が満たされるゲームだからです。
デイセーラーはその為のヨット、セーリングするヨットです。

それで結論、セーリングは面白いのか? とっても面白いです。是非、みなさんもセーリングして下さい。ヨット「はただ走れば良いという時代ではもはやありません。いかに走るかです。

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