第九話 ソフト 

車で言うセダンというのが最も使い勝手が良いのでしょう、最も多い種類です。ただ、最近では6人乗りとか7人乗りとかワンボックスカーも増えてきています。それは生活のスタイルの変化によるものです。車はそれでも、もっとでかい車でも一人で運転できます。シングルハンドが可能です。ですから何も問題は無い。しかし、ヨットというのは、大きくなるとシングルでは、それなりに難しくなります。この難しいというのは、セーリング技術の向上とは違って、不安を伴うものです。出す時に風向きによっては他のヨットにぶつけないか、そういう心配です。ただ、難しいというのとは違います。

不安は二人居るとかなり軽減されますから、実際二人居ますと、相当でかくても大丈夫でしょう。この場合、不安がかなり取り除かれるという安心感が、操船をうまくしてしまう。安心感は出航する気持ちを気楽にしてくれますから、出航回数も多くなる。でも、この場合、自分ともう一人は誰か、いつでもそばに居てくれるのか?そういう問題が起きてきます。いつも誰か居るなら、出したい時にいつでも出せるなら、解決です。

シングルハンドを推奨していますが、もっとでかいヨットに乗りたい方には、せいぜいダブルハンドでスムースにセーリングを楽しむ事をお奨めします。少ない人数の方が、集め易い。それに、自分が目的とするセーリングを堪能し易い。これはいろんな人が居ると、考え方もバラバラですから、レースとかに焦点を絞らないと、なかなか、全員を同じ方向に向けるのは難しくなるからです。ダブルハンドで、この二人がセーリングを楽しもうと考えているなら、大きなヨットでも、それなりの艤装を施せば、楽にセーリングを堪能する事ができます。電動ウィンチ1個つけるだけでも、大きなセールを上げる時、楽々できますから、出航してセーリングする事に億劫さを感じる必要がありません。実際、4人も5人も常時集めるのは大変な事です。できるだけ気軽に出せる事は必須条件だと思います。

結果、ヨットはシングルか、或いは大きくてもダブルで、楽に動かせて、セーリングを堪能できる。そういう状況を作っておくのが良いと思います。これを基本にしておきますと、いろんな状況でも対応できます。

どんなヨットにするかは大切な事ですが、その運営の基本条件をきっちりおさえておく事は、これから先のヨット遊びを大きく左右する事になります。予算もたくさんあって、50フィートのヨットを買った。でも、それをいかに運営できるか、面白くできるかは、ソフト面にあって、いかに高性能コンピューターを手に入れても、ソフト無しではただの箱と同じです。どこどこに行きたいとかいう事は当然あっていいわけですが、いかに運営していくか、つまりそのソフトの性能にかかわってきます。それで、そのソフトは運営をできるだけ楽にできるようにする事であり、その為には基本条件をできるだけ高くしない事です。それで、できるだけ少ない人数で動かせる事を条件に置いた方が良いという事になります。

それができたら、セールを上げるとか、シートを引くとかの操作において、いかにやるかをかんがえますし、場合によってはファーラーの導入とか、電動ウィンチの導入とかを考える。そして、さらに
ダウンウィンドをいかに演出するかも考える。上りは良いけど、ダウンウィンドは退屈だでは、面白さは半減してしまいますから、スピン、ジェネカー、ジブブーム、これらの使い方を考慮する事をお奨めします。もちろん、操船人数との関係もありますから、その中でできる方法を確保しておく必要があります。

ここまできちんとしたソフトを設定しておくなら、後は乗るだけです。ソフトもきっちりしている分、セーリングに関しては面白いセーリングを堪能できるでしょう。このソフトがきっちりしていないと、動かそうに動かせなくなって、ストレス解消のヨットがストレスを造ってしまいます。

ソフトは、何人でヨットを動かすか、日常のセーリングはどうのようにするか、遠くへ行くか、その時はどうやるか、基本的にキャビン重視か、旅重視か、セーリング重視か、誰がクルーか、そのクルーはいつまでも一緒に居られるのか、こういう事を事前に決めておいても、時が経つにつれて、状況は変化しますから、その都度調整していかなければなりません。クルーが転勤した途端に動けなくなるようでは困りますから、また急いで次のクルーを確保しなければなりません。そういう意味ではヨットを遊び秘訣はこのソフト次第と言っても良いかもしれません。そして、このソフトとヨットのコンセプトが合致する時、最高のヨット遊びができる。ソフトが先行して、ヨットがそれについてこれないとこれまたストレスになる。その逆もあります。

ですから、セーリングを堪能しようと考えたら、キャビンヨットは合わないし、キャビン重視なら、広い方が良いし、その両方なら、もっとサイズの長いヨット、フリーボードの高さでキャビンを確保するのでは無く、全長の長さで確保する方が良い。

今のデイセーラーは他から見れば極端に見えるかもしれません。あの低い、ベタッとした船体は非常に低い。でも、そのお陰で、どんな走りができるでしょう。そこまでキャビンを犠牲にしなくてもと思われるかもしれません。最初は私もそう思いました。でも、考えてみたら、その事がもたらす恩恵と犠牲になるキャビンの空間を天秤にかけたら、かえって、中途半端になるより、セーリングが堪能できて、より面白いという事に気づかされます。それに比べたら、キャビンはそんなに使うわけじゃないと気づきます。そう割り切れる自分も発見します。そうなると余計にセーリングが堪能できて、へたにキャビンが大きいと、つい他の事も考えてしまいます。そうするとセーリングも中途半端になったかもしれません。それで考え直して、それで良いんだと思うようになりました。この事は、ソフトがよりきっちり決まってきた事を意味します。運営の仕方とヨットがより合致している事を意味します。

ついでながら、ヨットの重心がここまで低いと、実際コクピットに座って走っている時、ヨットの重心が高い位置にあるのと、ぐっと低い位置にあるとでは、全く安心感も違う。セーリングのフィーリングも違う。ちょっと吹いてふらっとするより、もっと吹いてくれたらもっと面白い、そういう感覚さえ持つようになる。この事だけでも、操船が面白く感じられるようになる。ここは大きな違いだと思います。セールがエンジンだとすると、重心の低さはより大きなエンジンを持つ為に必須で、それ無しに
大きなエンジンを持つと、もっとクルーが必要だったり、風をどんどん逃がして、帆走の楽しみを削減したり、そういう事に繋がっていきます。そうなると、キャビンの方が楽しいという事になるのかもしれませんね。でも、今はキャビンだけでは続かないという事が解ってきました。

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