第九十五話 家と車

家を買うのと車を買うのとでは、全く心構えが違ってきます。単純に金銭の違いとかでは無く、購入後の使い方をどうするかとか、そういう事が全く違います。家が別荘なら、いつ行くか、家族で、仲間と、どうやって過ごすか、そういう事になりますが、車だとそれに乗る事、走る事、移動する事などが考えられます。つまり、家はそこで過ごす事が主体でどうやってという事になりますが、車はそれに乗ってどこに行くかという事になるでしょう。

さて、ヨットの場合はと考えますと、家であったり、車であったりします。これは両方になり得るという事で非常に良いという考え方もできます。しかし、一方では、家として使いきれなかったり、車として乗り切れなかったりもするのではないかと思います。家と車は矛盾する事があり、家として満足させようとすると、車としては使いづらくなり、車として満足させようとすると、家として満足できなかったりします。家を買うなら家としての機能などを考えれば充分、車を買うのなら車としての機能を考えれば良い事になりますが、ヨットの場合はこれがどうもうまく行かない。二つの機能は有り難いと思いながら、実はこの相容れない二つの妥協点に困ってしまいます。最初からどっちかの機能しか考えないのなら、ヨット遊びはもっと面白かったのではないかという気がします。

ヨットを家として買うなら、快適がテーマ、キャビンはそれこそ快適でなければなりません。それに本物の家とは違う所は移動ができる事ですから、固定別荘とは違って、移動できるヨットは、それこそ2,3年おきぐらいにホームポートを変えるともっと楽しめるようになると思います。それこそ動く別荘はこうやって楽しむのが良いのではと思います。ですから、エンジンやセールは移動の手段ですから、できるだけ手間のかからないように、でも、ファーラーなんかにする必要も無いですね。マリーナ間の移動に使うのが主ですから、それも殆どはエンジンで行き、セールは緊急用になります。こうやって、2,3年おきにあっちこっちにヨットを移動させる。つまり、別荘があっちこっちに行くわけですから、これは考えてみれば面白いと思います。固定別荘より遥かに面白い。そう割り切れるなら、セールはどうでも良い。緊急用ですから。その代わり、キャビン内は充実させます。そして、2,3年おきに行った先の場所で楽しむわけです。別荘に遊びに行くわけです。

或いは、車として買うなら、充実すべきはセーリングです。キャビンは無いと寂しいですが、まあ、そこそこあれば充分、決して充実させる必要はありません。ちょっと疲れた時に横になれれば、それでも充分でしょう。しかし、デッキの上の艤装は充実させます。とにかく、いかに走るかが基本ですから、セーリング性能、スタビリティー、艤装の取り回し、そういう事を充分に考えて、面白いセーリングをいかに味わうかが重要です。このヨットでちょっと遠くへ移動するかもしれません。でも、別荘が移動するのとは違います。それはおまけであって、あくまでセーリングが主体です。そう考えれば、日常のデイセーリングがとても面白くなります。

こうやって割り切って考えますと、とてもシンプルになってきます。別荘のようなヨットでもセーリングはできますし、車のようなヨットでもキャビンで過ごす事ができます。割り切っていますし、自分の考え方は別荘主体、車主体と明確ですから、互いの不十分な部分にがっかりする事もありません。
別荘ヨットはほんのたまにセーリングで爽やか気分を味わう事もあるでしょう。それで充分だろうし、乗用ヨットはほんのたまにキャビンで過ごす時はキャンプ気分を味わえるでしょう。主とした事が充実しているからこそ、もう一方はたまにで良いし、そのたまも楽しくなります。

ところが、これがどっちつかずの場合でしたら、どうでしょうか?ヨット自体の事もありますが、オーナーの気分の方が重要かと思います。このヨットをどんな気分で乗るか、主体はどちらかひとつとして考えて付き合った方がもっと面白くなるのではないかと思います。別荘主体なら、快適別荘を目指します。セーリング主体なら、キャビンはともかく、艤装には気を使います。そうやって、自分の主たる目的を充実させる事が先決で、それが満足できれば、もう片方はほんのたまにやれば、それで彩りとして楽しめるのではないかと思います。

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