第十話 カッコイイ男

人は美しいのが好きですし、カッコイイのが好きです。ヨットは欧米では彼女という女性名詞で呼ばれます。彼女なら美しい彼女にあこがれます。それは誰でも、男なら共通でしょう。人間の彼女を作りますと、いろいろ問題もあるかもしれませんが、ヨットなら彼女にしても良いでしょう。人間の彼女程お金はかからないし、ただほっときますと拗ねてしまいますので、愛情をもってお付き合いして頂きたい。きれいな彼女を持つと、男はそれで嬉しいものです。それで、良いヨットは年とっても、手入れさえしてやればいつまでもきれいです。彼女もオーナー次第です。きれいな彼女を持つ男は
カッコ良く見えます。それは愛情深く手入れしているからです。彼女を見れば、オーナーが見えてきます。

その美しいヨットをいつも良い状態に保ち、今度は乗りこなしてやる。それがカッコイイと思います。どんどん乗って、乗りこなして、自由自在で、使い込む。そのして、いつも美しく手入れをする。それがカッコイイと思います。どこか遠くまで行った経験があるとか、世界一周した経験があるとか、それらは確かにすごい事ですが、その時はカッコ良かったかもしれませんが、今、ヨットが美しくて、今、自由自在に楽しんでいるのなら良いですが、過去の話では今はカッコ良くない。問題は過去や未来では無く、今、カッコイイかどうかではないかと思います。

どんなヨットを持っているにせよ、今、そのヨットが美しく、例え傍目でうまいと言えないにしても、自分なりに楽しんで、自由を満喫しているなら、それがカッコイイ。どうせそのうち腕は上がってきます。乗ってさえいれば上手になるもんです。本当はうまいへたより楽しんでいるかどうかが重要かと思いますが、乗っていれば自然にうまくなるもんです。

セーリングは事実よりも、感覚が重視されると思います。走っている時にどんな感覚を感じたかです。冷や汗、エキサイティング、緊張感、だるさ、スリル、楽しさ、爽やかさ、これらはみんな感情です。人に話をする時、この感情はなかなか解ってはいただけないかもしれませんが、この味わった感覚は独特のものです。これらをたくさん味わった人はきっとカッコイイと思います。きっと滲み出るものがあると思います。この中のあらゆる感情の中で、エキサイティングだけ味わいたいと思ってもそれは無理な話で、それを味わいたかったなら、全部引き受ける事になります。

つまり、ヨットにどんどん乗れるという人は全部引き受けた人ですから、良いも悪いも全部受け入れて面白いと思った人ですから、ヨットの深さを引き受けた、深い人だと思います。だから、カッコイイんだと思う次第です。

是非、自分の惚れこんだ彼女を大事にしながら、いろんな感情を味わいながら、それを全て引き受けて、イエスとかノーとか言わず、全てが彼女の一部ですから、全てを受け入れて、満喫して頂きたいと思います。それには、遠くや近くは関係無いし、彼女と自分の得意とするところで遊ぶのが良いと思います。それが自分のスタイルだと思います。

もし、自分の気分が変わって、スタイルが変わったら、彼女には悪いが、別の彼女に目が行くようになります。それは仕方ないことで、スタイルが変わったら、そのスタイルに合う彼女をまた見つけて、新しいスタイルでまた遊びます。そうすると、また異なるニュアンスのあらゆる感情を味わう事ができる。そうやって、最後には行き着く場所がある。

初心者の方にはデイセーリングをお奨めしています。そして、ベテランの最後のヨットとしてもデイセーリングはいかがですかと言います。デイセーリングはヨットがヨットとして堪能できるあらゆる物が凝縮しているのではないかと思います。

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