第二話 面白さをキープ
便利さ、快適さを追求するのは賛成ですが、あまりにやり過ぎるとヨットの面白ささえも無くしてしまいかねないのではと思います。今の時代、便利は当たり前で、何もその時代の流れに逆らうつもりは毛頭ありませんが、自分がどの部分で遊ぶと面白いかは考えた方が良いだろうし、その面白さを残しつつ便利、楽なんかを備えたら良いのではないかと思います。 一旦、楽や快適になりますと、そうで無い事には我慢ならなくなります。その便利、快適が過ぎると遊ぶという行為そのものが不便、不快を少しでももたらすものなら、しなくなります。でも、考えてみますと、ヨットという乗り物はオートマチックではありませんし、天候も自由にはなりませんし、 シート引くには多少力も必要ですし、タックやジャイブしたり、トリミングしたり、そういう行為は、便利や快適が基準になりますと不便、不快と感じてしまうかもしれません。夏の暑さ、冬の寒さ、こんな不快な事はありません。 しかし、便利や快適が面白いのかと言いますと、これまた別の問題です。快適グッズで満たすと、人は楽な方に行く傾向がありますから、結局はセーリングを全くせずに、快適キャビンでDVDの映画でも鑑賞している。そういう事からすると、セーリング自体が不便で不快な物になっていきます。 映画を見るのが悪いわけじゃありません。意識が便利一辺倒に行くのが問題じゃないかと思う次第です。セーリングをすると、いろんな作業が必要になります。それで、できるだけ楽にセーリングできるようにも考えるようになります。できるだけ自分では何もしないで良いように考えます。本人はそんなつもりは無いと思いますが、便利さの追求は自然とそうさせてしまう。 今や小型艇でもメインファーラーを見かけますし、ジブファーラーは当たり前になりました。それにオートパイロットを設置して、広いコクピットにテーブルがあって、ドジャーがあって、ビミニトップがあって、GPSや他の計器が並び、それでもセーリングするとウィンチは回さなければならない。それで電動ウィンチが来て、それでも波が高かったりすると不快で、風が強すぎると不快になります。 そのうちマリーナから出航する事自体が面倒にさえ感じるようになります。そこで、キャビンで映画鑑賞しかしなくなる。 便利艤装はおおいに設置して構わない。しかし、便利を味わいたくてヨットを始めたわけでは無いし、どこかに面白さをキープしておかないとヨットは長く続けられないのではないかと思うわけです。 我慢できる不快、不便、我慢できない不快、不便というのがありますが、それらはそれぞれ個人の中にあり、何も不快を我慢してセーリングをしようという事では無く、面白さを追求すると、不快、不便がたいして不快でも不便でもなくなっていく。それ以上に面白さを味わいたいという気持ちが勝っていく。波があったら、あったなりに、風が強くなったならそれなりに、不快さが前面に出るのでは無く、面白さを感じてくる。もちろん、限度はありますが。 だからと言って、何も設置ない事をお奨めしているわけではありません。設置して良いと思いますが、どこの部分をどんな風に面白く味わいたいかをキープして、その為に、その面白さの追求の為に、その面白さを楽に味わう為に、設置する。快適セーリングをどんどん味わって、映画鑑賞よりよりも面白いと思っていただかなければなりません。その面白さを味わう為には、やる作業は何でも無い事だと少しでも思っていただかなければなりません。 山登りをしますと、山頂に到達した快感は何物にも代え難い。でも、ヘリコプターで山頂に降り立っても何も感動はありません。かといって麓から歩いて行くのもしんどいですから、せめて、山頂の手前5合目か7合目あたりからでも歩いて、自分で登る方が面白さを味わえると思います。ヘリコプターの便利さを追求したら、山登りさえ興味は無くなります。それはもはや遊びでは無くなります。 昔、何も無かった時代は、遊び道具は自分で造ってました。工夫していました。今の時代は何でもあります。完成品があります。ですから、今の子供が遊んでるのを見ますと、うまくいかない時、不快な時は工夫せずにすぐに切れる。でも、工夫する遊びの面白さもあると思います。ほんの少しでも良い、ちょっと考えて、自分で工夫して、試して遊ぶ。子供の頃のように。それが遊びの秘訣なのではないかと思います。不便を遊ぶ。そう思うと回りを便利グッズで囲んでも、完璧にはなりませんから、その不便さを遊ぶ事ができる。 PLAYとは遊ぶ事ですが、PLAYは演じるという意味もあり、野球などのスポーツをやる言葉です。 つまり、遊ぶとは本来、快適にするという事では無く、演じるという意味で、行動そのものが遊びという事になります。行為無くしてはもはや遊びでは無くなるのではと思います。それで行為は面白くなければ、もはやPLAYはしなくなります。ですから、自分のPLAYをキープしておく事だと思います |