第三十ニ話 ヨットとの関わり

イギリスの造船所から日本にはハードはあるが、ソフトが無いと言われた事があります。そして、そのソフトがいかに大事か、いつか解る時が来るとも言ってました。日本には世界中のヨットを導入する事ができます。しかしながら、オーナーがそのヨットを存分に楽しんでおられるのか、と言いますと疑問も残ります。昨日ですが、あるマリーナに行って、あるオーナーのヨットを見てきました。もう長い事乗っていない。年に1回は船底塗装だけはやります。しかし、実際はヨットに来られていません。デッキには黄砂で汚れ、隅の方はカビらしきものもありました。こんな事がこの2年ぐらい続いてます。

ソフトというのは解るようで、解らない。どんな風に楽しむ事ができるか、その提案だと思います。そのひとつが、これまで長い事書いてきましたセーリングそのものを楽しむという事です。ところが、あいにくと言いますか、全ての方々がそういう乗り方を好まれるわけではありません。奥さんと二人、ヨットに来て、のんびりセーリングをする。そして時々、ちょっと遠出をする。そういう方も多いと思います。そういう使い方の方が、もっとマリーナに来たくなる方法とは何か?

セーリングは良い。これまで通りで良い。のんびりセーリングをたまにする。快適な天候の時に、ゲストを招待した時に、これまで通り楽しく過ごす事ができます。長い事マリーナに来ていない方、今度はいつ乗るかと考えます。天気の良い時とか、誰か誘ってとか、セーリングを追及しない方でも、マリーナに来る時はセーリングを考えます。そうしますと、なかなか良いチャンスにめぐり合う事が少ない。仕事と重なる。他の用事と重なる。暇な時は天気が悪かったりです。

ヨットをもっと活用するには、ヨットをセーリングする道具のみならず、いっそのこと別荘があると考えた方が良いかもしれません。天気が悪くても、ヨットを別荘的に使う事ができないか?それには、マリーナに居るだけで、非日常性を感じ、楽しくなくてはなりません。或いは、マリーナに居て、寛げる事が必要でしょう。別にセーリングに出無いにしても、マリーナで1日過ごす事ができるとしたら、オーナーはもっとマリーナに来るはずです。

それにはマリーナが賑やかであったり、逆に自然の中にあって、静けさを満喫できたり、コクピットに居て、ビール片手に読書しながら、そのまま寝てしまったり、ところが、日本人は何もせずに1日を過ごす事が苦手なようです。何かをしたくなります。それじゃあ、ヨットで何かできる事を考えます。自分の書斎を持ったつもりで、マリーナに来て、ヨットで、出航せずに何ができるか、何か面白い事はないか。

ある方は出航しない時は楽器の練習をしている人が居ましたね。フラメンコギターを習っているそうで、ヨットにしょっちゅう来ては練習されています。また、ある方はトランペットでした。ここなら、遠慮無く音が出せる。ある方、読書、ある方は自分でヨットの手入れ、それにいろんな工夫をされていました。

セーリングを追及するやり方は、それだけで充分ヨットを遊べると思います。しかし、そうで無い方は、このように、ヨットを書斎にして、そこで楽しむ何らかの方法を持っておられます。それが無いとやはりマリーナからは足が遠のいてしまうのではないでしょうか。という事はヨット以外にもうひとつ趣味が必要になります。この場合、ヨットは別荘であり、書斎なのですから。

でも、セーリングが趣味なら、セーリングをもっと自分なりの追及においておくなら、こういう出航しない時の使い方はメインテナンスであったり、工夫であったり、いろんな艤装の点検、考案、いろいろ出てきます。ワクワクしてやれるもんです。セーリングを追及するからと言って、いつもいつも出れるわけではありません。出航しないでもマリーナでどんなに過ごせるかは、ヨットをトータルで楽しむ為には大きな比重があるような気がします。

ヨットマンがセーリングしない時に、どんな風に使えるか?マリーナでどんな風に過ごせるか?これも重要な事かもしれません。それにはマリーナの雰囲気やロケーションも影響しますし、ヨット仲間との盛り上がり方にも影響されるでしょう。

最近、外装には全くチークを使っていないヨットも見かけます。手入れ不要とかも言います。しかし、考えてみたら、ちょっとチークがあしらってあって、乗らない時は自分で磨いて、ニスをピカピカに塗るという作業も面白いと思います。手入れは煩わしいのではなく、面白いと考えます。ピカピカになっていく自分のヨット、結構楽しいです。そして、自分自身もチーク塗装に関しては詳しくなっていきますね。ヨットも成長し、自分も成長します。普段は使わない機器類も全部動かして点検してやる。自分が自分のヨットの隅々にまで精通していく。それは面白い事でしょう。そうやって、楽しいマリーナでのヨットの過ごし方のスタイルを持ち、そしてクルージングも楽しむ。もっと、もっと使い方を考えたいと思います。

昔、あるアメリカ人に日本人は構えすぎと言われた事があります。遠くに行く計画をして、食料や燃料調達してというのであれば解りますが、日常でのデイセーリングにおいても同じ。もっと、気軽に、マリーナに遊びに来てはどうか?ヨットを出すから来る、出さないから来ないでは無く、マリーナに遊びに来る。たまたま気分が乗ったらぱっと出して、1、2時間でも遊んでくる。それぐらいでも良いんじゃないかという話です。もっと、マリーナに気軽に遊びに行きましょう。回りのオーナー達と世間話をするだけでも良い。コーヒー一杯飲んで帰っても良い。何をしても良い。このちょっと遊びに来るという気持ちが大切ですね。

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