第五十四話 ファミリーヨット
ファミリーカーという言葉が流行った時期があります。家族で出かける姿がTVコマーシャルに流れ、家族全員が乗れる、それにトランクにも荷物が一杯積み込める。その頃でしょうか、マイホームパパなんていう言葉が生まれたのは。 ヨットにも同じようなニュアンスで、ファミリークルージングなるシーンを思い浮かべた事でしょう。ファミリーで乗るとなると、そりゃあ家族分のベッドがほしくなるし、フル装備のギャレーや独立トイレ、温水シャワーもあった方が良い。みんなで料理して、クルージングして、泊まって、みんなできるヨット、安全で操作がし易いヨット、そういうのを考えます。 海外では子供からヨットに親しんでいる。ですから、子供が小さい時、ディンギーで子供が遊んでいる。昔、ジョーズという映画があった時、海岸で小さな子供達がディンギーで遊んでいるシーンがありました。また、ワンパクフリッパーというイルカが出てくるドラマでも、小学生ぐらいの子供が船外機付きのボートで、ひとりで出て行くシーンも見た。アメリカというのは、子供でもボートに乗って遊んでいるんだと、感心するやら、驚くやら。彼らは、家族でヨットを遊び、そして子供達が大きくなって、夫婦だけになったら、それで外洋に行ったりする人達も少なくない。博多にも良く、世界中からそういう夫婦が訪れます。 しかしながら、日本は、ファミリークルージングを主に遊んでいる家族は非常に少ない。子供が小さい時、お父さんは一生懸命働いています。ですから、ヨットで遊ぶ暇なんか無かった。お父さんがヨットを買って、ファミリークルージングをしようと思った時、子供達は大きくなって、離れて行ってしまった。たまにヨットに乗って遊ぶのも悪くない、しかし、彼らにとってヨットは親しみが無く、友達の方が優先される。 根本的にヨットに対する認識が違います。例えば、ヨーロッパなどでは毎年1ヶ月ぐらいの休暇がある。そんな時、家族みんなで旅行でもしようもんなら、かなりの予算が費やされます。でも、ヨットは家族がみんなで過ごすには低予算で遊べるものでもあった。住んでいる家は20〜30年で建て直さなければならない日本の家屋事情とは違う、数百年、代々が使う事ができます。それにマリーナの係留料も日本より安い。また、家族を大事にするという認識も異なる。 ファミリーカーにしても、子供が小さい時だけは活躍するでしょう。という事はお父さんが若い時なんです。若い時にヨットを持つ事が出来れば、ファミリーヨットは日本でも成立するかもしれません。しかし、いろんな物価が高い日本、ある程度の年齢に達しないとヨットまでは難しい。 という事は、ファミリーヨットは実はファミリーヨットにはならない。年に何回かぐらいでしょうか。私の知る限り、奥さんさえもヨットに乗りたがらない方が多い。圧倒的に多いです。そんな中でファミリーヨットを持ってきても、役に立たないのではないでしょうか。家族が来ないから、仲間を集めてクルージングに行く、或いは、年に1回ぐらいはファミリーが来る。そんな状況の方が遥かに多いと思います。ですから、普段は動かす事ができなくなる。 根本的に欧米人とは、ライフスタイルが異なります。ここで、日本人にとってヨットとは何か、どう運用すれば良いか、と考えます。確かに、今の時代、若くして大成功を治める方も増えてきましたので、若い彼らはまた遊びに対する考え方も異なるでしょうから、欧米的な考え方にもなるかもしれませんが、少なくとも、今はそうでも無いと思います。 つまりライフスタイルに合うヨットではなかったという事になると思います。ファミリーヨットの特徴は大きなキャビンです。大きなキャビンという事はボリュームが大きいという事で、家族が来ない殆どの日々にどう使うかが問題です。これをひとりで自由自在に扱える方は問題ありません。しかし、そうでもないと誰かを呼ぶ事になります。そして、誰かを呼ぶにしても、しょっちゅうは遠くには行けませんので、デイセーリングをして帰る。家族でのクルージングを考えていましたので、セーリングに重点はあまり無い。それで仲間と集まって、デイセーリングの後は1杯飲むか?これもしょっちゅうはできませんね。 クルージングはヨットが主体というのでは無く、集まりが主体であり、どこかに行く時は旅先が主体になる。おまけに、最近では車の飲酒運転は厳しく取り締まりされますから、ヨットで宴会さえもしにくくなりました。これではますますヨットが遠くに行ってしまいます。 という事は、どう考えても、ヨットで遊ぶ最も良い方法は、ヨットそのものを遊ぶという事ではないでしょうか?家族が主体では無く、宴会が主体では無く、セーリングを主体にした方が楽しめるのではないかと思います。人の好みによっては、旅が主体になったりもするでしょう。それはその方のスタイルの問題ですから、それで良い。つまり、ヨットはあくまでオーナー個人の主観によるものでなければならない。そして、家族や宴会はイベントとして、楽しむ事ができる。 もし、オーナーがセーリングを主体として考えた場合、自分の都合だけで、空いた時間にセーリングを楽しむ事ができます。すると、稼働率はもっと高くなるのではないか。 年を取って、子供達も独立したら、もはやファミリーカーは不要です。例えば、4駆が好きだったり、スポーツカーが好きだったり、自分の好みで良い。ヨットだって同じです。それにどんなヨットでも、 車と違って乗れる人数は多い。もしかの時、年に1回かもしれなくても、家族を乗せる事はできますセーリング中はキャビンにじっとしている事は無く、コクピットにいるか、キャビンで寝てるかでしょう。キャビンに寝泊りをしない限り、キャビンはそれほど重要では無い。 キャビンの扱いは兎も角、日本人のライフスタイルに合うのは、セーリングにあると思います。それも日常的にはデイセーリングです。そのデイセーリングをいかに気軽に遊べるようにするかにかかっていると思います。オーナーは自分の好みをできるだけ反映させて、いかにセーリングを遊ぶかが重要かと思います。 それで、デイセーリングを主体とすると、セーリングそのものが面白く無いといけません。それで、スポーツセーリングが良いと思う次第です。それもできればシングルで、できる方が良い。セーリングを主にしないと、宴会かどこかに行くしかありません。そうなると、前と同じになってしまいます。 スポーツはセーリングを意識するだけ、より良いセーリングを味わいたいと思うだけです。かくて、日本にファミリークルージングヨットは必要ない。セーリングヨットが必要で、そのセーリングヨットでも家族も、仲間も、誰でも乗せる事ができます。ファミリーヨットから脱却して、セーリングヨットに意識を変えましょう。キャビンの中の設備より、いかに走るかの艤装の方に意識を向けましょう。子供達にしても、仲間にしても、ぶらぶらクルージングしているより、真剣にスポーツした方が実は面白いと感じると思います。それを面白いと感じたら、もっと面白くしたいと思います。それで、セールを学ぶ。この繰り返しで、セーリングが面白くなる。 セーリングが面白くなると、たまにするちょっとした遠出なんかも一味も二味も違ってきます。宴会もそうです。何故なら、既にセーリングを知っているからです。本格的な外洋とか、旅とか以外に興味が無いという方々以外は、セーリングを主にした方が良いと思います。そうなると、ほんの2〜3時間でも充実したヨットライフを味わう事もできます。その後、宴会するにしても、セーリングをスポーツしてからだと、味わいはまた違う。そう思うのですが、いかがでしょう? もうひとつ方法があります。それは、いっそのこと、ヨットを完全リゾート化してしまう。家から遠く離れた、リゾート地のようなところに預けてしまう方法です。地方は大都市圏よりも経費は安いですから、確かにしょっちゅうは行けませんが、年に1回か、2回かもしれませんが、まとめて休みととって、欧米人のように1ヶ月とかは無理ですが、1週間とかでも、リゾートとして満喫してしまうかです。 海域も良い、景色も美しい、時間もある。そういう乗り方もある。どうせしょっちゅう乗れないなら、そういう方法もあります。これなら乗った気分を満喫できますね。家族も来るでしょう。或いは、友達の家族が行きたいと言えば、ホテル代わりに貸す事だってできます。 それで、提案は、近場に置くなら、デイセーリング主体でセーリングを満喫する。或いは、旅を主体にする。これは時間がたっぷり必要です。そして、もうひとつはリゾート地にヨットを移すかです。引退したら、自分がリゾート地に引っ越しても良いし、そこから旅を開始しても良い。或いは、手元に移してセーリングしても良い。 それでフォークボートやアレリオンシリーズ、セーバースピリットがこれに当たります。ロングの旅を楽しみたいなら、セーバーかコメット、リゾート地においてホテル代わりにも使いたい方にもOKでしょう。コメットはもっとセーリングを意識していますので、クルーが居るなら日常のセーリングにも適しています。どんなライフスタイルがお好みでしょうか? |