第七十一話 シンプルORフル装備

日本でヨットが大衆に根付く事は、この数十年は無いように思われます。北欧では5〜6人に一人はヨットを所有しているらしい。でも、日本は1万人に1人ぐらいです。それは文化の違いですからどうしようも無いのですが、少なくと、少しづつでも増加の道を進んでもらいたいと思います。

中古艇を考えれば、価格的には手が出無いような金額ではありません。安いのになると無料というのも出てくるくらいです。でも、問題はふたつ。ひとつはマリーナ保管料、もうひとつは日本人は完璧を求めるという性質ではないかと思います。

ただでもらったヨット、整備して乗るというより、いろんな便利グッズを設置しないといけないような、例えば、ジブファーラーだったり、オートパイロットだったり。それにメインもスライダーじゃないといけないし、トイレも個室で無くちゃ、エンジンはインボードでなくちゃ、キャビンも立てる高さじゃなくちゃ、木を使って落ちついた雰囲気、いろいろ必要で、そうじゃなくてはならないような。そうやっていきますと高価になります。それでも無理して、設備を整えて、あげくのはては、たいして乗らないというのが、特例では無く、一般的なのです。その完璧主義の日本人が、肝心なヨットの本質については無頓着だったりします。

便利な世の中ですから、いろんな便利グッズを求めるのは解りますが、それが無いと乗れないというのはどうか、それと便利になったにも拘わらず乗らないのは何故か?便利を求めるのは、快適を求める事です。これ自体には何ら問題は無いと思いますが、セーリングにも快適ばかりを求めるので、そこが問題です。実際セーリングすれば、良い時もあれば、そうで無い時もあります。それを受け入れないと、何も味わう事ができません。誰でも、時化は嫌ですが、そういう事に遭遇してしまったら仕方無い。そういう事もあるだろう。確かに、マリーナ保管料は高い。でも、最も大きな理由はこれじゃないかと思います。

嫌な目に会いたく無いから乗らなくなる。快適のみがヨットの良さ。快適を求めても良いのですが、ヨットが便利になったら、その分もっと気楽に乗れるようになるのが当たり前ではないかと思うのですが。ヨットは快適に設備できますが、海ばかりはどうにもなりません。それで、自分に起こる事は
とりあえず受け入れる事が必要になります。そして、次にどうやって乗るかを考えます。

かつて、北欧の造船所から、何でそんなに何でもつけなきゃ乗れないんだ?と聞かれた事があります。あれば便利は解っている。でも、無くてもヨットは楽しめる。そういう気持ちにみんながなれた時、ヨットはもっと普及しますね。そして、そういう気持ちになった時、便利グッズがあると、もっと乗れるようになる。便利グッズはもっと乗れるようにする為で、楽にする為とは違う。楽だから、もっと乗れるという事にはなるんですが。

シンプル装備で良い。フル装備でも良い。要は気持ちの持ち方次第のようです。それにセーリングから、何らかのフィーリングを得ようと思えば、リスクを犯さなければなりません。出るだけでリスクですから。快適だけでは済まない。それをあえてやる。そういう人だけが面白いと感じるのかもしれません。考え方次第で、どうにでもなります。ヨットを楽しむには、良い時もあれば、そうでない時もあるという事実を、その両方を受け入れる事が必要だろうと思います。良い事だけを期待すると、ヨットには乗れ無くなると思います。

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