第八十七話 スポーツクルーザー

レースとクルージングというふたつの言葉しか無い為に、どちらかという決め方をしますが、クルージングというイメージにプラスセーリングをスポーツするという考え方でヨットを見ます。そうしますと船体はしっかり強い物がほしいと思います。それは安全と耐久性と乗り心地、そういう物に影響してきます。

船体ですが、通常はポリエステル樹脂を使います。しかし、良い物になりますとビニルエステル樹脂を使います。これは後者の方が水分の吸収率が少ないという特性があります。常に海に浮かぶ船体にとっては、これはメリットです。また、船体の補強材、ストリンガーですが、これもハルに設置されますが、きちんとグラスで積層された方が将来剥がれる心配がありません。さらに船内のバルクヘッドなども同様です。これらは船体のねじれに対する剛性となります。剛性が弱いと船体がねじれますので、良い事はありません。トラブルの元にもなります。

強度ばかりを強調しますと、今度は非常に重すぎる事になり、セーリングする上では面白味が無くなります。それで、バルサ、デビニセル、エアレックスなどをFRPとFRPの間に設置する事で、重量を軽減、これは厚みは増しますので、船体剛性に寄与します。但し、FRPとコア材がしっかり接着されていなければなりません。そこで、バキュームバッグ工法という大気圧を利用した圧着を行います。これは想像以上に大きな力で、全体をビニルバッグで囲い、真空ポンプでエアーを抜きます。大気圧で圧着される事になります。ちょうど家庭のふとんなどを袋に入れて、掃除機でエアーを吸い取るとペチャンコになりますね。考え方は同じです。

デッキも同じように製作していきます。そしてキャビンを造って、ハルに蓋をするようにデッキを被せ、接着剤とボルトで固定します。この被せ方にもいろいろあります。作業は簡単になるが、将来水漏れしやすくなるかも、という工法もありますね。それは力の掛かり具合を考えると解ります。

船底ですが、キールはフィンキールで依存は無いでしょう。またラダーもバランスラダーが主流になってきましたが、これもスケグがありますとラダーを守るという事にはなりますが、バランスラダーの方が軽いので、それの方が良いかなと思います。

さて艤装ですが、レーサーのような艤装にする事はありませんが、セーリングを操作して遊ぶという意味で言えば、それなりの艤装を考える必要はあろうかと思います。典型的なのが、メインシートトラベラーはコクピットにあった方が操作し易いという事です。これはクルーの有る無しに拘わらず、その方が操作はし易い。それにバックステーアジャスターがほしいし、できれば、ジェノアトラックのシートリードブロックを前後に調整する装備もあれば、操作がし易くなります。後は、通常のクルージング艇にもあります。

全体のシルエットは、人間の身長サイズがありますので、極端に低くすると重心は低くなってこれはこれでセーリングには良いのですが、そこまではという方には、ある程度のフリーボードの高さは仕方無いと思いますが、高くしすぎるきらいが最近ありますので、これはどうかと思います。15年ぐらい前までは結構みんなフリーボードは低かったのですが。

そして、セールエリア。クルージング艇より少し広い方が良いですが、レーサーのように広いのは困ります。こういう事を考慮しているのがイタリアのコマー社のコメットシリーズです。内装木をたくさん使って、作りこんでありますし、クルージングするにしても、キャビンで過ごすにしても、落ち着ける感じです。セーリングをスポーツし、且つ、キャビンも充実しています。最近ではトランサムをオープンにして、スポーツのイメージを強調したりしていますが、内装は簡素では無く、作りこんである。

もちろん、これよりもっとスピードを強調して内装をシンプルにして、軽くしているヨットもありますがこれはレースに出る事を主体としたヨットと言えるでしょう。さらに進むとグランプリレーサーという事になります。簡単に言いますと、スポーツクルージングはクルーザーレーサーから少しクルージング寄りという事になるでしょうか。

  写真はCOMET33です。
  オーナーはシングルハンドで乗りこなされて
  おられます。

 






9/10のフラクショナル、スルーデッキマスト
セールドライブのエンジン、ファーリングジェノア
にフルバテンメイン。これにファーリングジェネカ
ーを設置。これ以上のサイズになるとシングル
は少しきつかもしれませんね。
マスト位置はやや前側で、JよりEの方が少し
長い。


さて、もう少しロング、外洋性を強調していきますと、もはやメインシートのトラベラーはキャビンの
上でも良いかなと思います。ロングのセーリングでは、そうしょっちゅうトリミングを細かくする事も無くなってきます。大まかなトリミングとそれでも少しでも速い方が行動範囲は広くなります。
船体の頑丈さとか、剛性の高さとかは同様です。ただ、少し重めになります。これは積載貨物が多くなるでしょうから、そういう想定の元、設計、建造します。

アメリカの外洋専門造船所 セーバー社から2艇建造、386と426です。このサイズですと外洋行っても良いですし、近場のセーリングでも楽しめます。ただ、コメットよりもう少しクルージング寄りといえます。

 

 写真はセーバー386です。作りこみが違う。
 こちらはトップリグです。





セーバーもコメットもハンドクラフトを強調した高い作り込みのヨットです。スポーツセーリングから
外洋ロングセーリングをご堪能頂けます。どちらもプロダクション艇ではありますが、オーナーの
ご意向をできるだけ反映させる方式で、豊富なオプション選択が可能です。
これにジェネカーのファーラー方式があれば、全てのアングルにおいて、セーリングをご堪能頂けます。質の高いヨットだからこそ質の高いセーリングが可能です。

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