第九十五話　シングルハンドによるアプローチ

当然ながら自分ひとりしか居ません。誰かゲストを乗せても良いですが、基本的には操作に携わるのは自分ひとりとします。まずは、自分で舵を握る事を基本と考えます。できるだけですが、オートパイロットなどは使わない。せいぜい、セールを上げ下げする時ぐらい。後はセーリングに入ったら、できるだけ自分で舵を握る。その方が面白いからです。ヨットにはいろんな操作がありますが、舵を握っているのがその中心にある。それを機械にやらせるのはもったいないからです。

という事は舵を持った状態で、理想は全てのコントロールができる事です。舵を片手に、もう片方の手でメインシート、トラベラーの左右移動、バックステーアジャスター、バング、カニンガム、ジェノアシート、ジェノアトラックのリードブロックの前後移動などです。ある程度大きなヨットならその操作を電動とか油圧とかを使って、ボタン操作でも構わない。自分の意思で、自分の思った量を操作できれば良い。できるだけ舵操作と同時にできる方が良いと思いますので、そういう艤装の仕方になっていた方が良いと思います。何もバタバタ急がなくても良い、自分のペースでひとつづつやれば良いと思います。そういう意味では体力もさほど要らないと思います。ですから、女性でもできますし、高年齢の方でもできる。誰でもできます。

余談ですが、もう年取ったから、のんびりやれば良いという方がおられますが、もちろんのんびりで良いのですが、操作はのんびりでも、快走を求めた方が刺激はあるし、ゲームとしては面白いと思います。年齢や体力は快走には関係ありません。電動ウィンチ使えば良いし、楽して最高のセーリングを求めれば良いと思います。そして、最高のセーリングはスムースなセーリング、無理の無いセーリングですから、楽なのです。楽な操作で、意識は快走にある。

舵を握っていますと、ウェザーヘルムやリーヘルムを感じます。軽いウェザーヘルムが良しとされますが、それは海面下においても、揚力が発生し、水の流れに対して少し角度を持たせた方が効果的である。キールは動かせませんが、舵は動かせます。小さな面積ですが、水の密度は空気の８００倍に及びます。ウェザーヘルムがあれば、舵は風下側にほんのわずか切る事によって、流れに対して角度をつける事によってここにも揚力が発生する。これが横流れを防ぐ力にもなります。
但し、舵を大きく切らないと真っ直ぐ走れないならば、これは前進への抵抗となってきます。これを修正するには、マストの前後への倒れ方、レーキを調整しなければなりません。

マストチューニングはレーサーだからする事では無くより良いセーリングには必要な事です。決してそんなに難しく考える必要は無く、考えて、解る範囲でやれば良いと思います。これも遊びのひとつとしてです。ウェザーヘルムがきつすぎるなら、マストが後ろ倒れ過ぎ。セールの力の中心点が、船体の重心よりも後ろに行きすぎ、マストを少し起こして、セールの中心点が船体の重心よりも、若干後ろになるように調整します。何も一発でやる必要は無く、調整して、まだ駄目なら、また別の機会にやるぐらいの気楽さを持ってください。フォアステーのターンバックルを少しつめる。

余談ですが、ファーラーのドラムがフォアステーのターンバックルを覆い隠していますので、やりにくいですよね。これが無ければもっと簡単にやれるんですが。ところが、この間のハーケンのファーラーは違っていました。フォアステーにターンバックルは無く、ドラムその物がターンバックルの役目をします。ですから、調整したい時は、このドラムごと回せば（ロックはずして）、フォアステーの長さを簡単に調整できるようになってました。さすがはハーケンです。フォアステーの長さはマストのレーキを決定します。

何でも一発で決めようなんて考えない方が良いです。次回のセーリングでまだ調整要だったら、またすれば良いぐらいの感覚で居てください。レーサーなんか、レース前に風を見てその場でやったりするんですから、そこまでシビアーじゃありませんから、のんびりやりましょう。でも、物事の理屈が解って、調整して、その良くなった状態が自分で感じられる。そういう時は嬉しいもんです。

ヨットの難しい所、インテリジェントなところはいろんな要素が絡み合っているところかなと思います。ひとつの結果はひとつの原因ではないというところです。それがヨットを難しくしていますが、物は考えようで、そこを解いていくのが面白いところでもあると思います。セーリングは考えるスポーツでもあると思います。まさしく知的セーリングです。年取ったら、知性で勝負しましょう。

最近、自動車の営業マンと話したのですが、最近では若い方はワンボックスなどのファミリーカーを求める方が多く、団塊の世代の方にスポーツカーを求める方が多くなったそうです。なる程、解る気がします。若いお父さんは家族の事を考え、熟年になったら家族は巣立ち奥さんだけですからスポーツカーで良いのです。それで、ヨットも同じで、若い世代はファミリークルージングを考えますが、熟年はデイセーラーのスポーツセーリングが良い。もっとも、若い世代でも家族が来るケースは稀ですが。

シングルハンドのデイセーリングのイメージは、バタバタ動くというより、知性を働かせて、繊細なセーリングをする。センシティブなセーリングかなと思います。

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