第五十八話 デイセーリングの強さ

今時のデイセーラーはデイセーリングだから船体が頑丈である必要は無いという認識は、間違っています。それどころか、極めて頑丈であり、かなり上位に居る。外洋艇の頑丈さと変わらないのではないかと思います。量産はしないという前提ですから、職人による入念な造り、それに比例する構造、特に、アレリオンのSCRIMPシステムという工法はハンドラミネートの2倍以上の強度があると言われます。

何故、デイセーリングにそういう強度が必要なのか、ひとつはデイセーリングは帆走性能を堪能するのが第一、そして高い帆走性能を出す為には、船型だけでは無く、船体の硬さも必要です。船型だけでは走れない。それともうひとつは寿命でしょうね。船体が硬い、強いという事は受けるストレスに対抗する力が強いという事ですから、それだけトラブルも少ないし、寿命も長い。

寿命が長いとしたら、20年で考えるのと、50年、或いは100年を基準にしますと、再販価格は高い位置を維持できます。それに、硬い船体のヨットに乗りますと、波当たりのフィーリングは全く違います。船体が波に負けていません。それは先ほどの性能にも関わりますが、この受けるフィーリングはとっても重要で、安心感、乗り心地、信頼、そういうものに繋がっていきます。たとえ近場のセーリングであってもフィーリングは非常に大切で、そのフィーリングの為にセーリングしていると言っても過言では無いと思います。グッドフィーリングを得る。それが目的です。

デイセーリングの強さという意味ではもうひとつあります。それはオーナーの気持ちの問題です。デイセーリングが基本だと思っていれば、そう割り切っていられれば、気持ちはずっと軽やかになります。いつでも出れる体制が整っており、しかも気軽であり、ちょいと30分でも1時間でもという軽やかな気持ちは、ヨットを楽しむうえで、思った以上に大切な事かと思います。決心も要らない、準備も殆ど要らない、気が向いた時にさっと出る。何の躊躇も無く、ちょっとそこまで散歩に行くぐらいの気持ちです。でも、出れば、大海に出たのと同じように、いろんな体験ができる。スリルもあればエキサイティングもあるし、のんびりもあれば、感激もある。全てがあります。そういう意味では、船体は頑丈な方が良いし、安定感も抜群な方が良い。それにハンドリングがし易く、そして、美しいのが良い。

美しさは個人の美的感覚ですが、でもまあ、共通して、美しいものは美しいと共通している部分も多いと思います。自分の持つ美しさの美的感覚を満足させるヨットを、美しく保って、気軽に出て、美しくセーリングをする。そんな美しいヨットを持つと、ほっとけません。出れない時でも、マリーナに来て、コーヒーの一杯でも飲んで帰る。そういう事もあるでしょう。

何の為にヨットに乗るか、自分の価値観、美意識、そういうものを満足させる為であり、理屈じゃ無いのではないでしょうか。

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