第六十二話 シングルである事

ヨットというものが単にセーリングをする。その優雅さやを爽快さ味わうだけなら、シングルでなくても良いと思います。仲間が居れば、その方が楽しいと思います。その時を過ごすだけでも楽しいものです。でも、ヨットを長くやるという意味ではちょっとニュアンスが異なってくると思います。たまに行く遊園地なら、たまに行く旅行なら、仲間や家族と行った方が楽しいと思います。しかしながら、ヨットを何とか日常に溶け込ませるには、イベント以上の何か面白さが必要かと思います。それは単純に味わう受身的な物では無く、もっと積極的な追求するような姿勢があった方が面白さが深くなるのではないか。

その答えがデイセーリングであり、シングルハンドだと思っています。シングルハンドでなければならないとは言っていませんが、誰かと乗る時もイベントでは無く、日常に根ざした乗り方でなければ日常的には乗れない、ましてや何年も続くものでは無いと思っています。

日常に根ざすというのは、何か特別な企画とかが無い、何でも無い、普通の日々の事です。そういう時に乗れる事。そしてそういう時の方が圧倒的に多いという事です。そういう何でも無い時にこそ面白さを感じるものでなければ、長く続ける事は無理がありますし、まして、本当に自分のものにはならないと思います。そして、この日常に乗る面白さとイベントとして仲間と乗る時の楽しさは別な種類のものです。

だからと言って、日常にはシングルにこだわるわけではありません。誰かと二人で乗っても良い。それが日常になるなら。ただ、イベント的に仲間と乗るのとは違う事は認識した方が良いと思っています。仲間と乗る時はたいていピクニックです。それで良いんです。みんなに楽しんでもらいたいという願いです。ですから、そういうイベントです。接待のようなものです。外の人達を楽しませる事です。でも、日常は外側の人達の接待では無く、自分又は自分とクルーの内側の遊びです。質が違う。

仲間を家に招待してパーティーをやる。これは外側の人達を接待するイベントです。でも、日常は家族だけの内側の人達で過ごしています。これと同じで、日常は内側の人達で、楽しくやれる事が必要です。それが面白ければ、面白い程良い。それが面白いからこそ、たまにイベントでも接待を楽しくできる。楽しんでいる人に呼ばれたら、呼ばれた方も楽しくなる。楽しんでいない人に呼ばれるよりは良いはずです。

そこで、日常は内側の人だけで面白いヨット遊びをする。それで何をするかと言いますと、そりゃあヨットですから、セーリングを楽しまずに何を楽しもうというのでしょうか。ヨットを使って何か違う事をしようとすると、例えば、夏なら海水浴とか、そういう事をしようとすると、それはイベントになってしまう。イベントになりますと、それは日常的に何度もはできないのです。したくなくなるのです。
で、やっぱりセーリングしか無いわけです。それが最も自然だと思います。ヨットですから。

それじゃあ、どうセーリングするかという事になりますが、それを面白くしたいというなら、セーリングの面白さ、深さを追及していく事が最も良いと思います。誰でも知っている通り、セーリングは誰でもできるかわりに、奥が深くて難しさをも備えています。その深さを追求していく事が面白いになっていく。知らなかった事を知る事、感じた事が無かった感覚を得る事、そういう喜びが面白さであります。それには、セーリングに集中しなければなりません。セーリングを学ぶ姿勢が必要です。そういう場合、相棒がぜんぜんその気が無かったら、できない事になります。ですから、シングルである必要性は絶対ではありませんが、シングルの方が自由がきくという事になります。良い相棒に恵まれたとしたら、幸いです。

シングルはシングルで、自由度が高いという以外にも、シングルである事によって得られる事も多い。もちろん、ダブルの場合でもまた別の得られるものがあります。こうやって、日常を面白く、普通の事として、セーリングを堪能していく。そしてたまに外側の方々を接待してやる。それが長く、ヨットを楽しむコツではないかと思います。本格的にロングを楽しまれる方は、それがベースになっています。しかし、たまにちょっと遠出ぐらいでしたら、それはイベントとして、日常的にはデイセーリングを楽しまれたらいかがでしょうか?

ここにもデイセーリングという乗り方が、日常に合うという事になります。遠くに行きたいけど、行けないからデイセーリングする。これはイベントになりがちかと思います。そうでは無く、したいからデイセーリングをする。大きな違いです。

それには、シングルハンドというのは最大の味方になると思います。シングルで、セーリングを堪能できるとしたら、後は、クルーが来ようが、イベントだろうが、仲間とのピクニックだろうが、何でも来いです。自由自在です。

それで、シングルにしようと思っても、イベントでは仲間が何人もきて、そういう事を考えますと、大きなサイズが必要だと思い、今度は逆にシングルができなくなる。シングルで乗れるぐらいのサイズでは大人数乗れない。でも、良く考えてください。ヨットは本来誰の為か?会社が接待の為に購入するのであれば、大きなサイズで良い。でも、個人オーナーが購入するのは自分の為、自分がまずは堪能できなければ意味は無い。それにシングルで乗れるヨットにも人によってまちまちですが、シングルハンドはひとり乗りじゃありません。どんなヨットでも最低でも3〜4人は乗れるでしょうし、ちょっと大きなサイズでも5〜6人ぐらいが良いし、それ以上乗ったら邪魔な時もある。イベントで来る人達はその時だけですが、オーナーは日常の事です。何人も呼びたかったら、また別の機会を作れば良い。まずは、オーナーが日常的にいかにヨットを楽しむかが最も重要なことかと思います。後の事は、それに合わせるのが良い。そう思います。

一般的には、イベント的に乗る方が多いのではないかと思います。ですから、何かのイベントが無いと乗らない。日常ではマリーナに係留されっぱなしというヨットが圧倒的なように思えます。それでは、日常に、オーナーは何をしているいかと言いますと、ヨット以外で遊んでかもしれません。それで良いんだと言われれば、何も言えませんが、ただ、それではヨットは自分のものにならないし、セーリングの面白さも少ししか解らない。確かに使い方は自由ですが、せっかくのチャンスを得たわけですから、そのチャンスを味わった方が面白いと思う次第です。誰でも、したいと思ってできるわけじゃありません。言うならば、全体から見れば、選ばれた小数の人達と言えると思います。
まあ、チャンスをどう使うか、それも自由ですが。

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