第六十八話 幻想

多くの方々が家族が乗るか乗らないかと考えてあるようです。俗に言われるファミリークルージング、残念ながら、それは幻想であると言わざるを得ません。最初は来た、でも、そのうち、来ても年に1回か2回、そういうヨットが殆ど、全く来ないというのも実に多い。結論を言えば、家族思いのオーナーが描いたファミリークルージングは幻想なのではないか。そう思わざるを得ません。でも、がっかりする事はありません。

元々、家族は一緒に乗りたいと言ったとしても、毎週でも乗りたいと思ったのでしょうか?そんな事はありません。時々乗りたいです。一緒に家族でクルージングをする。実に良い光景です。でも、家族はたまにで良い。最初からそうなんです。で、オーナーはどうかと言いますと、よくよく考えてみれば、本当に家族との団欒でのクルージングが本音だったのでしょうか?もし、そうなら、年に数回しか乗らないヨットでも、良いかもしれません。ファミリークルージングというのは、そういうもんです。車とは全く違います。家族と一緒に、ちょっと遠出する。でも、それは毎月でもそうしようと思ったのでしょうか?多分、頻度などは考えて居なかったのでしょうないでしょうか。

でも、男の本音としては、あのヨットでエキサイティングなセーリング、非日常的なスリル、興奮、感動を味わいたい、それも自分の自由自在の操船で。そう願ったのではないでしょうか?でも、ファミリークルージングでそれを体感するのは無理な話、ヨットに対する認識が違うのです。

出発点が違う。で、考えてみます。何故、ヨットを買うのか?家族の為か、自分の為か?家族の為なら、本当にヨットを家族は望んだのでしょうか?お父さんが望むから、それじゃ、私達も乗せてもらいましょうか、そういう程度ではなかったか?その時、家族が思うレベルとオーナーが思うレベルは違うという事です。それに気付かず、家族の為だと思って、ヨットを買う。すると、オーナーにとっては、満足できる運営ができなくなります。ここは本音で、家族に、自分自身の為にヨットを買うんだという我侭を宣言し、許しを請うべきです。そして、許してくれた家族に感謝します。で、年に1回か2回か解りませんが、そういう時に乗せてあげて、最高のおもてなしをする。

奥さんはゲスト、お客様です。全てオーナーが動きます。食事の用意から、片付けまで全部です。感謝のしるしです。それを家族の為に購入したと勘違いするもんですから、奥さんも働く事になる。それじゃいけません。

もちろん、例外もあります。奥さんがしょっちゅう来るヨットを知ってます。でも、例外中の例外。彼らは、出ると数ヶ月帰ってきません。夫婦の旅です。そういう方々も確かにおられます。でも、例外中の例外、デイセーリングでは全くそういうご家族を知りません。みなさん、たまにです。

どんなヨットを買うかは自由ですが、自分が何の為に、何を求めてヨットを手に入れようとしているか、その最大の理由は何か?それをきちんと理解しておく事が必要かと思います。それで、一般的に言いますと、ファミリークルージングはありますが、それが主流となる事はない。それは幻想だと思います。ですから、オーナーは自分が最も楽しみたい事は何か?それをきちんと考えておく事が重要です。

遊びに後ろめたさを感じず、それに代わって、感謝しましょう。家族がヨットをほしいと言い出したのなら別ですが、たいていはお父さんの発案です。家族はそれに同意したに過ぎません。同意したのと、積極的に乗るのとは別問題なのです。言いすぎかもしれませんが、日本にファミリークルージングは無い。幻想だと思います。

それで、どうするか? オーナーが本音で求めるヨットを手に入れる。どんなヨットでも気に入ったのが良い。それで、日常は遊んで、堪能して、そして家族に感謝します。どんなヨットであれ、家族を乗せてあげる事ができます。感謝の印として、年に1度か2度、乗せて上げてください。最高の接待で。言っておきますが、どんなヨットでも家族を接待できます。オーナーが仮にレーサーを買ったとしても、小さなヨットだったとしても、もちろん、デイセーラーだったとしても、家族を楽しませる事はできる。ですから、重要な事は、日常で、オーナーが楽しめるヨットでなければならないという事です。家族はオーナーが買うのをやめると言ったとしても反対はしないでしょう。同意させる方に説得しなければなりません。そこが全く違うという事です。それで中途半端に家族の事を考えるもんですから、失敗してしまう。奥さんはどうせ買うんだったら、自分達も楽しみたいと考えるでしょう。でも、たまになんです。毎月では無いんです。そして、乗らなくなっった自分はさておいて、乗らなくなったお父さんに満足するわけでは無いんです。そうなったら買わなきゃ良かったとなるんです。

良く良く考えて頂きたい。ヨットは誰の為か。その幻想を信じて、みんな失敗するんです。マリーナに行けばその失敗例をたくさん見る事ができます。数多くのヨットがあり、でも、週末に閑散としたマリーナを見るにつけ、これが失敗で無いとしたら、何が失敗でしょうか?

もし、家族を思うなら、自分の本音で、自分の目的に合ったヨットを選ぶべきです。それが家族の為にもなる。家族の為に買ったんだからといわれる方が迷惑なのです。家族にはたまに、最高の日和で乗せてあげる。それで良い。ヨットはずっと乗り続ければ辛い事もあります。それを全部含めて堪能するのがヨットです。家族はそんなヨットを求めているわけではありません。良い時だけ乗りたいのです。

繰り返しますが、家族が乗りたいと言ったとしても、それはオーナーと同レベルでの発言ではありません。それを家族が乗りたいと言ったから、そういうファミリークルージング用のヨットを選択しますと、失敗する事がある。そのヨットを普段、家族無しの時、少なくとも自由自在に動かせる大勢があるのであれば別ですが、そういう時、大抵はクルーを要する。それをシングルでも行けるかもしれませんが、気楽でなかったりする。オーナーが最も求めたヨットとは何か?家族とのクルージングが本当に主になるのか?或いは、家族が来ない時は、仲間を呼ぶ、それが主になるのか?もし、どちらも主にならないとしたら、何が主になるのか?結局、このどっちかが主と思うから乗る機会は激減します。ヨットを堪能するとしたら、主として、シングルで乗るか、或いは、誰か確定したクルーを得るか、どちらかしか無いのではないか?

もちろん、これはセーリングを堪能するという前提です。でも、もし、セーリング以外なら、マリーナは社交の場でなければならない。でも、現実はそうでは無い。社交の場なら、家族はもっと来る可能性があるでしょう。でも、それも無い。ならば、セーリングを堪能するのが最も良いというのが結論です。それで、デイセーリングが一番という事になります。

欧米では家族単位で行動するという習慣があります。それにはファミリークルージングが可能かもしれません。でも、それは丸々1ヶ月の休みがあるヨーロッパとは全く違う。また、社交の場であるマリーナ、環境が全く違う。彼らには、キャビンヨットが有効なのです。しかし、それでもデイセーラーが台頭してきているのは何故か?

いかがでしょうか?同意されます?それとも反対でしょうか?どっちでも良いんですが、本音をじっくり検討してみる必要はあると思います。幻想の上に築いたものは、崩れ落ちる。それは間違い無いと思います。皆さんがどうであれ、もっともっと楽しまれる事を願います。週末のマリーナが活気づいて、にぎやかになる事を願っています。

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