第七十一話 セーリングの理想形?

レーサーでは無く、クルージング派がセーリングを楽しむという次元で考えた場合、どんなヨットが良いのかと考えます。まずは、クルーが居ないか或いはひとり、ふたりの少数である事が前提です。あくまでゲストでは無く、クルーです。

ヨットはある程度は傾斜して走る方が効率は良い。ですから微軽風時にヒールが足りなければ、クルーを風下に座らせますが、クルーが居ないのでそれができません。今度は強風になりますと、ヨットは大きくヒールしますから、俗に言う腰の強いヨットが良い。そうでなければ、ちょっとしたブローに大きくヒールしたり、リーフを早めに余儀なくされたりします。するとせっかくこれからという時に、風を逃がし、リーフをする事になる。

幅が狭いと初期リーフはし易く、幅が広いと初期ヒールはしにくい。強風になってきて、ヒールがもっと進むとバラストが効いてきますから、バラストが重い方が、腰は強い事になります。という事は幅が狭くて、バラスト比が高い方が良い。

バラストは重い方が良いわけです。バラストが重いと全体重量が重くなるとまた面白く無いので、軽くする為に船体構造にそれなりの工夫が必要になる。でも、セーリングをするには船体強度が必要なので、強度も上げなければならない。軽く、強くです。

レーサーでは無いので、ある程度の乗り心地の良さ、安心感も必要になります。幅が広いと船底がフラットになり、波が高い時に波に叩き、その衝撃が大きくなります。幅が狭いと船底にある程度角度がついて、同じ様に叩くのですが、衝撃は少なくなる。バウのオーバーハングが無いと水線長が長くなり、それだけスピードは増すが、波がデッキに上がり易くなる。これも御免ですね。

コクピットの位置が水面から高いと、同じヒール角度でも大きく左右に揺れる。低いと触れ幅は少ない。これも感覚に大きく影響します。

こんな事を考えてデザインされたのが、今日のデイセーラーではないか。幅は狭め、コクピット位置は低く、大きなオーバーハングを持つ。そしてバラストは重く、全体重量は軽めだが強度は高い。
ただ、残念な事にキャビンは結果的に狭くなってしまった。でも、デイセーラーとして割り切る事でゴーサインを出した。

つまり今日のデイセーラーは他のキャビンヨットとは正反対の位置にある。理想的なセーリングヨットと理想的なキャビンヨットの違いはこんなのではないかと思います。今はキャビンヨット全盛ですから、セーリングヨットにするのは勇気が必要でしょう。でも、キャビンヨットにするにも勇気が必要になる日がいつか来るかも?

レーサーはレースをする為、キャビンヨットはキャビンで過ごす為、そしてセーリングヨットはセーリングを楽しむ為にある。今はレーサーかキャビンと両極端ですが、そこにセーリングというジャンルが加わる。さて、これをどう考えるか?

スポーツタイプのヨットというのは昔からありますが、みんなこれをレーサーの一部として捉えてきました。しかし、何もレーサーに決め付ける必要は無く、クルージングもでき、セーリングもできると考えても良い。本当は、こういうスポーツタイプが最も使い勝手はあるのかもしれません。デイセーリングから近場の沿岸クルージングまでという多くの使い方にとっては、最も合うのではと思います。キャビンもそれ程おおきくは無いが、充分な広さはあるし、セーリングしても面白い。ただ、シングルとはいかないでしょうけれども。それにキャビンの造りもあっさりしたタイプもありますが、きちんと木材を多用した作りこまれたスポーツ系もあります。

こんな考え方で、デイセーラーはシングルができる理想のセーリングヨットとして捉え、スポーツ系はイタリアのコマー社のコメットヨットを選択しました。コメットヨットは船体も強いし、内装の造りも良い。良く走ってくれるセーリングヨットです。デイセーラーにまで割り切れない方には、もってこいのヨットではないかと思います。

これがロングの外洋を含めたヨットになりますと、少し重めの中排水量ぐらいは必要になります。タンクの容量とかも重要です。で、帆走能力もあった方が、1日に走れる距離も違ってくる。そういう考えで、アメリカのセーバーヨットを選んでいます。もちろん、船体の強さとか安定感が必要な事はいうまでもありません。

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