第十話 キールの事

キールがもし無かったら?スタビリティーの事はちょっと置いといて、もしキールが無かったら、舵だけでは操船が相当難しくなる。どこに向かって走るか定まらない。キールがあるからこそ、真っ直ぐ走る事ができる。船底形状がボートのように角度がついてると良いのですが、フラットな船型だと方向が定まらなくなりますね。

そのキールが前後に長いと、直進性は良い、しかし、舵を切った時の回頭性は鈍くなる。キールと舵が連続してあるロングキールは抜群の直進性になりますが、舵が鈍い。ロングキールはロング用ですからそれでも良い。キールと舵が切り離されたら、舵効きは向上しますね。でも、キールが前後に長いとまだ舵効きは鈍い。それで、キールの前後幅を非常に短くしたのがレーサーで、舵効きは繊細です。その代わりスタビリティーの問題も出てくるので、でっかい錘を最下部にぶらさげてます。通常のクルージング艇やスポーツ艇などは、これらの間にある。

舵とキールを切り離すと直進性悪くなるのか?舵にスケグがついてますと、キールとスケグの関係で直進性は良い。でも、ラダーポストが舵の一番前側ですから、舵は重い。それで、スケグを取り払った。一部のヨットは直進性は宜しく無いが、良い設計を施された艇は直進性も良い。それで、ラダーポストも舵の一番前では無く、やや後ろ、バランスラダーと言い、ポストから前側にあたる水流と後ろ側にあたる水流で、力が一部相殺され、軽くなる。

キールにあたる水流にも揚力が発生します。その揚力は相手は水ですから、空気とは違って、大きな力になります。それはセールが風を受けて揚力が発生しますが、その反対方向に揚力が働いて、横流れを防ぐ。セールに比べてあの小さなキールでも、水の密度が空気の確か800倍だったでしょうか、それで絶大な効果を発揮するわけです。という事は、セールエリアに対してのキールの面積もある程度は必要という事になりますね。どの程度かはプロにお任せですが。また、水の流れもきれいじゃないといけませんから、フジツボなんかがついてるのはいけません。特に前側ですね。水の流れのエントリー部分は特に、きれいにながれないと、その後が乱れてしまう。すると、期待できる揚力を得られないので、横流れが大きくなる。

ある話で、キールが深い方が上りが良くなると聞きますが、揚力は面積の問題ですから、多分、前後に長いキールは浅い。前後に長いと、長いだけに水流が途中で乱れてくるのではないか?それが短いと面積を得るには深くしないといけませんので、そうすると水流の乱れが無くなるのかも?
この理屈は水流のスピードとエントリー角度も関係しますし、第一、キールはセールのように動かせない。

そしてもうひとつキールの役目はヨットを起こすという役目がありますね。但し、ヒールの初期では、キールはあまり傾いていませんから起こす力は小さい。でも、だんだん傾きが大きくなると、その力が大きくなります。ですから、初期では船体の幅が大きいほど、初期ヒールは抑えられる。そして、風がもっと強くなって、もっとヒールしだすと、今度はバラストの重さとその位置で、ヨットを起こす力が増大してくる。船体の幅が広くて、バラストも重いなら、スタビリティーは非常に高い。もちろん、これだけでは無く、船体自身の重心位置がどこにあるか、高いか、低いか、それとセールエリアも大きく影響してますが。

幅が狭いと初期ヒールはするが、バラストが重いとそれからは腰が強い。船体の重心が低いと尚良い。初期というのは風が弱いので、ヨットはある程度はヒールした方が速いので、その方が理にかなっていると思うのですが。そして、ある程度ヒールしたら、重いバラストが効果を発揮する。最近のヨットは幅が広いですが、バラストは軽い。船体重心もキャビンを大きく取る為に高い。

キールのデザインは揚力とスタビリティーを計算して造っているのですが、艇の目的によっても異なります。デザインはわからないのでプ任せ、でも、そのヨットのコンセプトに合っているのでしょう。

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