第六十二話 数値のマジック

ヨットを検討する場合、カタログをじっくり見て、いろんなデータを比較したりします。長さ、幅、重量、ドラフト、バラスト重量、セールエリア等々です。ところが、最近のヨットのデータには統一性が無くなってきました。

例えば、あるヨットは全長として、船体の長さだけを記載しています。これは昔はみんなそうだったと思いますが、最近ではアンカーローラーやパルピットを含めた数値で全長としているのがあります。例えば、ある37フィートヨットですが、よくよく調べてみますと船体の長さとして34フィートしか無い。ちょっとこれはやり過ぎじゃないかと思いますね。幅は広いですからボリューム感はあります。
そして、重量の記載はあるものの、バラストの重量が書いていない。これではバラスト比が計算できません。もちろん、スタビリティーはバラスト比だけで見るものでは無いのですが、でも、こういうデータはほしいと思います。まだあります。セールエリアです。セールエリアを計算するには、データとしてI,J,P,Eの長さがほしいのですが、この記載が無い。また、トータルセールエリアとして記載されている数値が、I,J,P,Eを計算したものでは無く、例えば、140%のジェノアをそのまま使っていたりします。ジェノアなどは100%を設置したり、130%だったり、150%だったり任意に変更できますから、これでは比較にならないわけです。メインだって、大きなローチで取るか、単純に直角三角形として計算した場合と違うわけで、ヨットのデータとしては、比較できるようにI,J,P,Eを元に算出したデータのみを出してもらいたい。その上で、標準セールは140%ですとか、メインはこうですとか、そういう統一されたデータを各社出してもらえると、正しい比較ができます。

もちろん、クルージングヨットである事で、そういう細かい事は気にしないという方々も多いとは思いますが、比較する場合は、やっぱり同じデータの根拠があるべきかと思います。つまり、セーリングにおける部分においては、他社との比較ができない。そういう事になります。まあ、気にしないならそれでも良いのですが。

水線長はどのヨットも数値が書いてある。幅も書いてある。こういう事から邪推しますと、全長はより大きく見せて、キャビンも大きいよと主張し、セールエリアも充分大きいと思わせる。そんな造船所の魂胆が見え隠れする。そして、調べてみると大抵は数値のマジックが施されている。これで良いんでしょうかね、と思ってしまう。多分、多くの方々が、そういう事に気付かずに比較されているのではないか、と心配になってくる。余計のお世話ですが。

昔は、長さと言えば船体長の事で、その数値をそのヨットの長さとして表示していたもんです。セールエリアにしても、I,J,P,Eから計算して、100%ジブの場合としていたもんです。バラスト重量もきちんと記載されていた。それがいつの間にか、都合の良い数値だけ出してくるようになってしまった。どの数値もきっちり出ていれば、セールエリアに対する水線長とか、重量とかを計算して、帆走性能を、少なくとも比較できるし、ある程度同じようなヨットなら、スタビリティーも比較ができる。本来は、ヨットはそういうもんかと思います。少なくとも、これらデータをオープンにすべきではないでしょうか?

その上で、もっと細かく見るなら、船体の材質、これもFRPでも樹脂は違う。構造的なものまである程度は出してしかるべきではないか。そうじゃないと、比較検討できないので、名前で決めるか、ルックスで決めるか、価格で決めるしか無い。

でも、まあ、今はそういうもんだという事は知っておいた方が良いのでは、と思いますね。

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