第六十七話 普通のヨットとデイセーラー

普通のクルージング艇とデイセーラーの違いは何でしょうか?普通のヨットはセーリングもできるキャビンヨット、一方、デイセーラーはクルージングができるセーリングヨットと言えると思います。つまり、クルージング(キャビンライフも含めて)に重きを置くか、セーリングに重きを置くかの違いです。

セーリングに重きを置いた時、ほしい物は何か?それは多分、簡単に動かせるけれどもセーリング性能の高さ、質の高いセーリングだと思います。しかし、同時に乗り心地とかのフィーリングも必要になります。その為に何が望まれるか?最も顕著なのが、スタビリティーの高さという事になります。バラスト比はもちろんの事、船体そのものの造りに重心を低く設定しています。このスタビリティーの高さというのは、走る物にとっては非常に有効で、安定性が高い。よって安心感にもつながりますし、楽な操船にも繋がり、よってセールをリーフせずに楽に走れる場面も多くなり、より快走を楽しむ事ができる。重心の高いヨットでは、もっと早めにセールを小さくする事が必要でしょう。よって、リーフの手間を減少させ、より快走が楽しめる事になります。一部のヨットにはカーボンマストを採用する事によって、より上部を軽くしている艇もあります。

一方、このスタビリティーの高さを実現する為に、船体は非常に低く建造されています。キャビン天井も低い。ここはセーリング優先という割り切り方を持つ事で、キャビンの広さを諦めています。それで、デイやウィークエンドというコンセプトを打ち出して、割り切っています。短期の寝泊りは良いにしても、長期の寝泊り向きでは無い。

セーリングを主体に質の高いセーリングをと考えますと、船体の造りも考えなければなりません。波に負けない、固い船体が必要です。特にセーリングの味わいという観点から考えて、セーリングができれば良いという事ではおさまらず、固い船体によって、波に負けない船体を造る必要がある。さらに、鈍いのも面白くありませんので、固く、重過ぎない船体が必要になります。それにはストリンガーやバルクヘッドの構造、ハルやデッキの構造が重要になります。固いだけでは無く、ねじれにも強い構造が求められる。船体にはストリンガーという骨のような物が設置されます。人間にとっても骨が無いとぐにゃぐにゃですね。そのストリンガーが無いヨットはありませんが、どういう風にやるかです。ストリンガーそのものに何を使うか、どういう構造物を使うかもあり、また、パテで接着するか、或いは、きちんと船底にグラスで積層するか?この違いは大きい。しかも、船体が完全に乾いてからやったのではくっつき方がまた違うので、そういう事も考慮して、一体にならねばならない。

次が艤装です。全てのデイセーラーが小さなジブ+大きなメインという考え方。デイセーラーはシングルハンドとしても使い易い。それには大きなジェノアよりも小さなジブの方が使い易い。タックも楽ですし、それにセールコントロールを考えると、メインセールの方がコントロールはし易い。ジェノアは上りはまだ良いですが、少し落としてきますと、どうしてもシートのリード位置がデッキ上にある為、内側に引く事になります。よって、きれいには開けない。その点、メインはブームがあるので、どの角度でもコントロールする事ができる。よって、メインセールを主にして、ジブを従と考える。つまり、小さなジブだろうが、大きなジェノアだろうが、走る角度によっては、使い物にならない。ならば、ジブを小さくして、メインを大きくするのは理屈にかなっている。

それで、ジブにジブブームを設置したアレリオンがあります。これはメインセールと同じ考え方で、メインにブームがあって良いのなら、ジブにもブームがあった方が良い。それで、この2枚のセールで上りから下りまであらゆる角度で走る事が可能になった。一方、他のデイセーラーは、ジブはセルフタッキングにするもジブブームが無い。よって、ダウンウィンドにはジェネカーを想定しています。下りになったら、ジブを巻いて、すかさずジェネカーを展開する。幸い、今日ではファーリングのジェネカーがありますので、出航前に上げておいて、必要な時に開く事ができるようになりました。もちろん、ジブブームを使ったセーリングよりは手間はかかるでしょうが、より帆走は面白くなる。

さて、その次ですが、全てのコントロールがコクピットに集中しています。これらはシングルハンドを想定しています。気軽にセーリングを楽しみたいという方々にとって、クルーが居なけりゃ出せないというのは欲求不満が出る。ならば、ひとりでも簡単に動かせるヨット、しかもただ動かすだけでは無く、十分に帆走を堪能できなければならない。スタビリティーが高いのも、このシングルハンドを実行するに多いに助けになります。

普通のヨットとの違いは、セーリングを優先して、より楽に、より面白くデザインされたヨットだという事です。しかし、全てにおいて満足させる事はできません。よって、ここでは、キャビンを犠牲にしたと言えます。高い天井、広いキャビンを諦める。キャビンライフはできるが二の次で良いという考え方です。そう割り切らないと、ここまでのセーリングはできない。そういう事になります。造る側もよくぞ、割り切ったと感心します。キャビン全盛時代に、それに逆行する行為ですか、物凄いチャレンジ性を感じます。しかし、その割り切りが良かった。それを市場が認めた。少なくとも欧米ではそうです。

日本ではまだまだこれからですが、きっと日本でも、このセーリングを楽しむという考え方は受け入れられると信じています。何故? それは面白いからです。どうも、見ていて、キャビンライフが根付くようには見えません。デイセーリングは面白いばかりか、誰でもできる、忙しい人でも何とかなる、そういうセーリングのジャンルは本当は主流になってもおかしく無い。何も、デイセーラーである必要性はありません。今あるヨットで、デイセーリングを楽しむ事を主体に考える。それだけです。
日常的にセーリングを楽しむ事、それが普通の事として捉えられるようになればと思います。その副産物として、キャビンがある。キャビンライフがある、近場のクルージングがある、集いがある、ファミリークルージングがある。今はその逆ですね。

思い返してみますと、何度も、何度も同じ事を書いてきました。ずっと読んでいただいた方々にとっては、最近のはなんら新しいニュースはありません。同じ事を、何度も、手を変え、品を変え、繰り返しています。まあ、飽きてきた方は仕方ないとして、このデイセーリングが根付くまでは、多分同じでしょうね。ご勘弁。

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