第二十八話 クルー

昨今のクルー不足は全国的に言える事かと思います。否、世界的かもしれません。しかしながら、考えてみますとレースをする以外において、クルーを必要とする事自体が、元々不便さを感じさせる。ヨットは人より速くという事を考えますと、ヨットの性能もありますが、各操作が素早くなくてはなりません。それなら各ポジションに人を配置して、それぞれの担当がタイミング良く、素早く動く必要がある。いくら性能が高いヨットであっても、このクルーワーク無くして勝つ事はできません。

一方、誰かと競うので無い限り、クルーが必要であってはならない。この場合素早いクルーの動きは不要であり、速いと言っても競争では無いので、完全にタイムラグが無いぐらい素早い必要も無い。それなら、これして、あれして、と順番にひとつづつやっても良い。そうなるとクルーは不要になります。まあ、大きなヨットになりますと出入港時とか、いろんな場面においてクルーが居た方が楽ではありますが、それでもせいぜいクルーが一人居れば相当な事はできる。

そういう意味では欧米でも、大きなヨットには電動ウィンチやファーラー、オートパイロット等々を使って、ビッグボートであってもショートハンドで可能にする傾向になっている。まして、一般のヨットであれば、クルーを擁しないと動かせないでは困るし、面白く無いわけです。クルーが絶対必要となりますと、それだけ動きが鈍くなる。

よって時代はショートハンド、理想はシングルハンドという事になる。シングルと言っても、動かす人がシングルで、ゲストは居ても、操船の役割をあてにしているわけではないという意味です。こうやって、スリムになる事で、動きはスムース、いつでも出せるという態勢を持つ。いかに素晴らしいヨットであろうが、出したい時に出せないでは、面白く無いわけです。

シングルハンドヨットというのは、今の時代の傾向をリードしています。一般のヨットでも、オートパイロットを使えば、かなりこなせる。おまけに電動とか、ファーラーとかでかなりこなせる。でも、出入港にはひとりクルーがほしくなるかもしれませんね。特に最近のヨットでは。但し、クルーとゲストは全く違うものです。

車はもちろん、バスでもトラックでも、電車でも、飛行機でもひとりで動かせる。ひとりで動かせるにこした事は無い。例えひとりでは乗らないにしてもです。もう10年ぐらい前になりますか、Distancea 60というヨットがドイツで誕生しました。この60フィートというサイズをシングルで乗れるという事で、そういう装置がつけられていました。これは極端にしても、これからは、シングルハンドを可能にするというヨットが必要ではないかと思います。その為には、オートパイロット、電動、バウスラスターなんかも必要とあらば設置する。簡単に動かせるヨットという事になる。大きくてもひとりで簡単に動かせるヨット、そういう時代に向かっていくのではないかと思います。

いろんな装備を設置して簡単に動かせる。そのうえで、旅を楽しむのか、セーリングの奥深さを味わうのが良いのか、使い方が分かれていきます。

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