第九話 面白さの為に

人は誰しも、楽しさ、面白さ、充実感を得たいと望みます。1日中、だらだらして、何もせず、寝てくらすなんて事は退屈でしょうがない。でも、何かをしようとすると、それが面倒くさかったりします。何もしなくては退屈だし、何かしようとすると怠け心が出てくる。しかし、望む面白さを得たいならば、何かするしかありません。そこで、何かするには、面白さを得るには、この怠け心に勝つしかない。

どの程度まで勝つか、そこが人によって違う。ある事に打ち勝って、どんどんやり続ける人はプロになるかもしれません。そこまではという人は、ある程度やって、そこそこ上手くなって、まあ、自分が楽しめる程度までは行けるかもしれません。それで、面白さを得ようと考えた場合、その意思の強さと同じレベルまでの面白さを得るという事になります。それは同時に怠け心と戦う事になる。どんなレベルにせよ、この怠け心とどこまで戦って勝てるかが、面白さを得るレベルになる。

ヨットが面白く無いなあ、と思われる方は、興味の方向が変わってしまったか、或いは、怠け心に負けたかのどちらかでしょう。つまり、誰かがもっとやれと言っても無理で、自分がその気にならなければ、自分の怠け心には勝てない。

そこで、何でもそうですが、簡単にできますよという言葉が誘いをかけます。簡単ならやってみようかという事になります。でも、簡単にできる事は、その面白さもそこまでです。ヨットは簡単ですと言います。誰もが、とりあえずマリーナを出て、何とか帰って来る。そこまではそんなに難しい事は無い。まあ、どこまで行くかは別ですが。とりあえず、その辺回って帰ってくる程度までなら簡単です。
しかし、そこで終わるなら、面白さもそこまでだと思います。

その程度では飽きてきますから、違う事を考えます。家族を乗せてみんなで行こう。仲間を呼んで宴会しよう。これらも簡単な事ですから、飽きてきます。それじゃあ、どうするか?自分で頑張って、怠け心を押さえ込んで、何かをするしか無い。そこで、一念発起して、ちょっと遠くへクルージングに行きます。何とかやれて、面白くて、いい気分を味わえる。しかし、それも今度は仲間を連れて、家族を連れて、何度も行きますと、やがては飽きてきますから、今度は違う場所に行かねばならない。近所の場所は大抵行ったので、今度はもう少し遠くを目指す事になります。という事は、面白さを得たいのなら、常に、もっと先に行く、その頑張りが必要になる。でも、その実行には、良い事だけでは無く、ひどい目に合う事もある。それでまた怠け心がわきあがってくる。そこでまた、この怠け心に打ち勝って行かなければ、面白さを味わう事ができない。つまり、面白さは簡単な事じゃないという事になります。これは何もクルージングに限らず、全てにおいて同じかと思います。レースでもセーリングでもです。他の事もです。ですが、いい気分を味わい、それが強烈に心に残りますと、頑張るエネルギーになりますから、いい気分を何とかして味わいたい。

セーリングについても同様ですが、一応乗れるようになったら、何もどこかに行くだけがヨットでは無いわけで、その同じ場所でもセーリングを、今度は深く突っ込んで行くというやり方もあります。遠くに行く努力は不要ですが、ここでは、今覚えたセーリングのひとつひとつをもっと深めていく作業になります。舵も持っていれば良いというレベルから、もっと考える必要がある。セールも展開しているだけから、もっと効率良くとかを考える。これはクルージングとは異にするものです。旅に興味があって、好きな人は旅に行けば、怠け心に勝つ可能性がある。しかし、セーリングの場合では怠け心に負けるかもしれません。また、セーリングに興味がある人は、旅にはあまり興味が無いかもしれません。いずれにしろ、怠け心に勝つエネルギーは興味にありますから、どっちか好きな方をやるのが良いという事になる。

レースをしない方はクルージングの旅と、誰が決めたかは知りませんが、、そういう既成概念でもって、誰しもが旅に出ようとする。しかし、本来、そこに向いていない方にとっては、怠け心に勝てませんので、結局乗らなくなる。という事は、もっとヨットの使い方が固定的では無く、もっと自由に、好きな方向に行けるようでなければならない。そこで、そのひとつとして、デイセーリングを提唱しています。セーリングが好きな方は、是非、デイセーリングで、セーリングをいろいろ試して、遊んで、頂きたい。

本気でセーリングをやる。とりあえず乗れる状態から一歩進むと、そこから面白さが始まる。何気なく走っていた同じ海域でも、走り方が変われば、そこに面白さが出てくる。対象は場所では無く、セーリングそのものですから。クローズで真っ直ぐ走る。ただ、それだけだったのが、本当に真っ直ぐ走れるように舵を取る。セールのドラフトはどうか、角度はどうか、形状はどうか、ジェノアはどうか、ひとつひとつ考慮の対象に加えていきます。そしてより良い帆走を目指す。これに風と波が加わりますから、実に多くのパターンがあります。これをひとつひとつ解明していく。微風から強風まで、自分が走れる範囲で、いろいろ試す。すると、同じクローズでもいろいろ違う事が解る。これが面白さであり、もし、面白さを感じないのであれば、違う方向へ行ったほうが良いかもしれません。このパターンは全ての角度にあるわけですから、膨大であります。それをさらに体に馴染ませるにはもっとかかる。でも、幸いに、簡単な事から順番に身についていきますから、そこが面白さとなって、次のステップへ進むエネルギーになる。

つまり、頑張って、努力して、怠け心に打ち勝ってというのも必要ですが、そのエネルギーは面白さですから、本人は全く努力しているつもりは無いわけです。必要な事は、この面白さをできるだけ多く感じなければなりません。その面白さが解らなければ、続ける事はできません。という事は自分の面白さはどこにあるのかです。セーリングにあるのか、競争にあるのか、或いは旅かそれ以外か?人が旅に出るから、自分も旅が面白いかどうかは解らない。そこを早く気付く事が必要でしょう。

でも、セーリングはヨットの基本中の基本です。どこまで深くやるかは別にしても、全ての方々がセーリングを体得する事は重要な事かと思います。いくらエンジンで行くにしても、合間のデイセーリングにおいて、偶然にでも快走を体験したら、きっと良い気分が湧いてきたと思います。ヨットしようなんて思う方々は、程度の差こそあれ、やはりセーリングが嫌いでは無いと思います。デイセーリングはセーリングを遊ぶ、クルージングは旅を遊ぶ、お互いに合間にはやり方を変えて遊ぶ。どうせやるなら面白いセーリングを、面白いクルージングをした方が良い。面白いセーリングは、セーリングを深く知り、体感する事でしょう。クルージングの面白さは、旅ですから、できれば目的地に真っ直ぐという事もありでしょうが、途中途中に寄りながらというのも面白い。しかし、車のようにはどこにでも停められないので、目的地への途中の情報をできるだけたくさん集めておくのも良いかもしれません。そうすれば、目的地に一目散という乗り方では無く、ゆったりできる。ゆったりできるならエンジンで行くよりセーリングで行った方が楽しいかもしれません。ほら、面白いクルージングにはセーリングも出てきます。まあ、こんな旅には時間がたっぷり必要でしょう。でも、面白さはきっと増加していくと思いますね。旅は目的地がありますから、気持ちは早く到着したいという気持ちに自然になってしまう。それが強くなればなる程、プロセスはないがしろになります。旅の面白さはプロセスにもありますから、そのプロセスを楽しくする為には急がない旅、目的地志向を弱めて、あっちこっち寄れるような旅の方が面白いかと思います。デイセーリングの旅にもなりますね。

時間があるから旅に出る。時間が無いからデイセーリング。これはちょっと違います。旅が好きなら時間を作る。セーリングが好きなら、時間があったら、1日2回でも出る事はできる。毎日でも出れる。外部の状況からする事を限定するより、好きな事に外部を合わせる方向に持っていこうと考えた方が、後々は良いような気がします。

面白さを求め、その面白さが次ぎのレベルの面白さの燃料になっていく。面白さを感じなければ、次の面白さを得る事もできない。よって、ちょっと上のレベルをいつも目指して、その都度面白さを得ながら、進んでいくというのが最も良いと思います。いつもプチ冒険を携えて。

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