第十二話 海

海は常に変化しています。それが陸との大きな違い。陸も変化していますが、海ほどではありません。陸では安定的で、舗装された道路は今日も明日も舗装されているわけで、雨が降る、雪が降る、そういう変化ですが、海の場合は、今日はベタ凪でも、明日は荒れ狂うかもしれません。つまり、同じ場所であるのに、舗装された道路のようにもなれば、オフロードにもなる。走る道がそうやって変化します。

風もそうです。風はヨットにとってはエネルギーです。それが無風になったり、強風になったり、これも変化します。つまり、ヨットというのは、常に大きな変化をする環境に対応する事になります。これが陸ほどに変化が少ないのであれば、事はもっと簡単になりますが、そうは行きません。むしろ、この変化を面白がる余裕が必要かもしれません。

人はその習性か、常に安定的に動かせる事を考えます。計算できるようにしようというのが常です。しかしながら、ヨットという遊びは、環境が常に変化し、その変化をいかに面白がる事ができるかにかかっているような気がします。もちろん、極端な変化は避けたいものの、変化が無いとつまらなくなってしまいます。

そこで、ヨットはどんな状況に対応しようかと、そのコンセプトを造る。いつも凪なら、外洋艇のようなヨットは不要になります。レーサーは速さが命、乗り心地的快適さより速さです。我慢しなければならないとしても、勝つ事が目的ですから、それで良い。いつも、荒れた海なら外洋艇が良い。でも、快走できる場面では、快走の度合いが落ちるでしょう。そこは我慢という事になります。いかなる場面においても完璧というのは有り得ない。

いろんな顔を持つ自然の中で、どうやって、どんなヨットで遊ぶか?何を求めるかになりますが、そのヨットのコンセプトが曖昧では無く、明確に打ち出しているヨットで、そのコンセプトと自分が得たいものがぴったり合う時が最も楽しむ事ができる。あれも、これもとなりますと全てにおいて中途半端という事になるかもしれません。今迄は、あれもこれもでした。しかし、次の時代に、これから進んでいくと思います。何でも対応するというものから、これが得意というものにです。物事が進化しますと、専門化されていきますが、それと同じでしょう。

別荘的に使いたい人、旅を満喫したい人、レースで勝ちたい人、そしてセーリングを満喫したい人です。これらがみんなひとつのヨットで済ます事は可能ですが、どれもが中途半端になります。ですから、ここを明確にした人が、そのコンセプトにおいて、他の誰よりも面白さを発見できる。日本もそろそろ、そういう次の次元に進んでも良いのではないかと思います。

別荘的に使いたいなら広いキャビンに豊富な装備、旅を楽しみたい人なら、外洋艇のような頑丈なヨット、レースなら速いレーサー、そしてセーリングなら、クルーが居るならスポーツヨット、シングルも考えるならデイセーラー、そんなところかなと思います。各ジャンルの艇は、そのコンセプトにおいて使われる限りにおいて、最も威力を発揮します。全てセールを持つので、セーリングはできるが、質的には全く違うと思って良いと思います。そのセーリングの質を問うか否か?

質が高いとフィーリングに跳ね返る。何度も言いますが、フィーリングこそが最も大切かと思います。別荘的に使うにしても、内装の造り、材質、広さ、快適さはフィーリングが違ってきます。旅の質も違えば、レースの質も違う。セーリングの質は、ただ真っ直ぐ走るだけでもフィーリングが違う。速さだけの事ではありません。一旦、自分の喜ぶフィーリングに出会えたら、それこそ面白さが違ってきます。

これまで、レーサー以外の人達はセーリングにそれほどのこだわりは無かったと思います。しかし、セーリングはヨットの基本的機能でありますし、そこのところを求める方々が多いのが普通ではないか、本来の機能がヨットの持つ深さそのものではないかと思います。ですから、そういう方々にもっと増えて欲しいと願います。セーリングの味わいをもっと体験していただきたいと思います。

これこそが、海でしか味わえない、ヨットでしか味わえない、最高のフィーリングだと思うからです。その為にはどんなヨットで、どんな風に乗れば良いのか?常に変化する自然に、調整しながら対応しようという遊び、セーリングはそんな遊びです。ぴたっと決まったら最高の気分、でもすぐに変化してしまう。場合によって一瞬かもしれません。でも、その味わった感覚は一瞬であっても、実に感動的であります。こんな遊びが他にあるでしょうか?それは釣り人が魚を釣り上げた瞬間、野球でホームランを打った瞬間、サッカーでゴールした瞬間と同じでしょう。ただ、それらほど明確には解らないかもしれません。目で見えないからです。それを感じられるようにするには、準備が必要です。それは集中という気持ちの準備、それさえあれば、逃す事は無いと思います。集中するという事は夢中になる事。面白く無ければ夢中になれません。

それで、夢中になれるように、周りを整える。そういうセーリングの質を高めたヨットであったり、簡単にヨットを出す事ができたり、シングルハンドにしたりです。シングルハンドでデイセーラーのヨット、これが最も面白いと思っています。最も自分自身の準備に至りやすいと思います。

大きなキャビン全盛の時代ですが、欧米人のようにキャビンを使うのか?と考えますと、日本ではそうでも無いように感じます。キャビンがそれほど使いきれないなら、旅に出るか、高い質のセーリングを味わうかになる。沿岸の旅なら、今のままで良いかもしれません。でも、状況によっては、外洋艇になる。高い質のセーリングを味わうならスポーツ系、シングルも想定するならデイセーラーが良いのではと思います。

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