第四十二話 デッドライズ

モーターボートを考える場合の要素としてデッドライズという言葉があります。これは船底の形状において、左右の船底の勾配が、水平面に対して角度が何度あるのかを示しています。例えば、水平面から15度の場合と20度があるとしますと、船体の中心から、船底角度は90度から引いて、それぞれ75度と70という事になります。

モーターボートはヨットに比べますと、かなり船底勾配がきついのですが、それでも波にバンバン叩きます。スピードが速いせいですね。ヨットはかなりフラットなのですが、それで、ボート程スピードが出無いが叩きます。

つまり、このデッドライズの角度が大きい程、船底は鋭角を成す事になります。モーターボートはスピードが出ますので、このデッドライズが非常に影響を受け、デッドライズが低いと船底はよりフラットという事になりますが、フラットであればある程、波にぶつかった時、ショックが大きいわけです。水泳での飛び込みで、角度がまずいと胸をバーンと打つのと同じです。

そこで、デッドライズを大きくとりますと、波打ちのショックは柔らかくなりますが、別の問題も出てきます。デッドライズが大きいと、同じスピード得るのにより大きなエンジンパワーを要する事と、もうひとつはキャビンが狭くなるという事です。エンジンを大きくしますと、コストに跳ね返ってきます。

この事はヨットでも同じ事が言えます。確かに、ボートのようなスピードは出無いものの、波が高くなれば波にぶつかりますし、この時フラットな船型だとそのショックは大きくなります。もちろん、頑丈であればショックの度合いはちがいますが。でも、フラットな方がスピードは出ますし、キャビンも広く取れる。レーサーなんかはスピード命ですから、フラットに、でも、クルージング艇は乗り心地も大事なので、ややこのデッドライズ的勾配をつける。まあ、キャビンを広くする為に、フラットなのもありますが。スピードと乗り心地と、それに頑丈さとがあいまって、どの当たりで妥協点を見出すかという事になると思います。

最近では、キャビンを広くする為に、バウのあたりも膨らんで、フラットな感じになってきているような。決して、クルージングには良いとは思えないような気もします。

そこにいきますと、ロングキールのヨットは、この船底が非常に鋭角になってます。ですから、非常に波当たりが柔らかくて、乗り心地は良い。長旅には良いでしょうね。でも、その反面スピードが出無い。

全ては、相対的ではあります。クルージングと言っても、乗り方はいろいろです。ですから、どれが絶対に良いという事は無いわけで、それがまた難しくする原因でもあります。好みの問題となります。船体は硬い方が良い、剛性も高い方が良い、重心は低い方が良い、でも、どこまで必要なのか?これらはみんな乗り味の関係しますが、沿岸クルージングだから、この程度で良いというのもありますが、それでも、例え、遠くに行かないにしても、これらの要素は、乗り味が違ってくる。乗り味をあまり気にしないのであれば、何でも良いのでしょうが。

でも、ヨットは乗り味が重要なポイントではないかと思います。楽器で言うなら、良い音が出るのと同じであります。もちろん、音にも好みもありますが、楽器なら誰でも良い音を好む。楽器は音であります。でも、ヨットは乗り味の他にも使い方がある。ヨットをどう見るかに寄りますが、個人的には、この乗り味が重視したい点です。何しろ、ヨットでしか味わえないフィーリングですから。
このフィーリングはたとえ、同じスピードで走っていたとしても、乗ってる側は感じが違う。それらは、船体の形状、硬さ、剛性、重心、バランス等々に関係してきます。

セーリングはスピードを楽しみます。しかし、それ以上に、その感じを楽しむ。速ければ何でも良いわけでは無く、フィーリング。難しい課題であります。もっとセールフィーリングに目を向けてほしいなと思いますね。それこそが、最も面白い部分ではないかと思う次第です。セーリングでグッドフィーリングを味わえるのなら、その他の事はそれ程重要では無い。ヨットの基準をどこに置くか?それによって見方が変わる。自分の基準はどこにあるのか?何が最も重要なのか?

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