第四十五話 付加価値

世の中には様々な商品がありますが、今日では基本的な機能の他、どんどん付加価値をつけられています。競争による差別化の現われかと思いますが、それら機能を見て、こんな使い方も、あんな使い方もできるな〜っと想像を掻き立てられます。それで、つい買ってしまう。こんな事もできますと、こんな場面で役に立ちますよ、そういう呼びかけであります。

でも、私の体験からしても、大抵はそんな機能は不要だったという事が良くあります。もちろん、受取側の問題もあると思いますが、でも、要らない機能が多すぎる。パソコンなんかですと、最初からいろんな機能が付属していても、多くは使わないのが多い。ですから、最近では、必要なソフトのみを設置しています。不要なソフトは使わないばかりか、その分、メモリーを占拠してしまいます。

物は浸透する前は、何でもかんでもという感じですが、ユーザーが解ってきますと、自分に必要な物だけにしたいと思うようになります。不要な物は無駄であるばかりか、邪魔にさえなる事がります。日本の場合は、結構何でも付いてる方が好まれるかもしれません。しかし、これからの時代は、極端な言い方ですが、必要な物だけ、という個別な造り方というのは、結構主流になっていくのではないかと思います。

昔ですが、アメリカで、車にラジオさえオプションというのがありました。ちょっとした驚きでしたね。必要な物だけつける習慣がありました。これも昔、あるボートを販売した事がありますが、安くは無い良いボートでしたが、トイレが電動では無かった。こんなボートにしては、おかしいと言われました。それが日本人の感覚なのだと思います。

しかし、もはや大量生産による、所有という次元は過ぎ、質が問われる時代になっていきます。そうなりますと、個性やら、ライフスタイルやら、個々人の事が重要になります。そういう意味では、これからは、各個人のスタイル、それに合う質などが重視されていくのだろうと思う次第です。

ヨットについては、今日、多くのプロダクション艇が、いろんな物を標準装備にするようになってきました。多分、これは差別化を図ろうとする結果の現われ、他の部分では、価格以外になかなか差別化を図れないのではないかと思います。その価格も競争ですから、同じような品質は僅差の価格です。

ところが、ちょっと大量では無い、でもプロダクション化している造船所でも、豊富なオプションを設定している造船所があります。最初から標準装備にしている方が、造る方は楽です。これには付く、次は無し、でも違うのが付く、こういう一艇一艇異なりますと、ややこしくなります。でも、それに対応する造船所は個々人に目が向いていますし、たいていは、少し価格は高いものの、質的には造りは良い。価格が少し高い分、質で勝負しないと勝てませんから。

ヨット文化は、まだまだ日本には浸透したとは言いがたいのですが、でも、少しづつですが、ハルカラーやウォーターラインの色を変えたりされますし、場合によってはセルフタッキングや、インナーフォアステーを設置したり、少し変化があります。計器を設置するにしても、何をどこに、どういう具合に設置するか?

イタリアのコマー社やアメリカのセーバー社なども非常にオプションが多く、色はもちろん、マストの選択や、リグの選択、いろいろ豊富にあります。自分に合った装備をすると同時に、不要な物はつけない。これからは、そういう時代に少しづつなっていくのだろうと思います。

でも、こういう造船所でも限界がありますから、もっと要求するならモーリスのようなセミカスタムになるでしょうし、もっとハルの形状から要求するならカスタムという事になる。まあ、ここまで来ますと究極ですが。

与えられた物から夢を描くのでは無く、自分で意識的に選んで、自分の夢を描く。質の良さと仕様については、できるだけ自分のスタイルを描く。セールはどこのメーカーのどんなセールにするか、マストはどんなタイプにするか、いろいろです。現在はせいぜい色の選択ぐらいですが、これからはもっと違う選択もある。何でもついている時代から、個人が必要な物だけをつける時代。大量に物が売れない時代、みんな同じ物で安心していた時代から、個性的な時代。

実は、そういう選択を検討する時というのは、面倒どころか面白い。解らないと面倒でも、解って来ると面白さになると思います。

最近、ここ2,3年でしょうか、日本に入ってくる新艇を見ますと、だいたい便利と楽がテーマであるかのようです。メインファーラー、ドジャー、ビミニトップ、電動ウィンチ、これらが付いてくるのが多いようです。温水や冷蔵庫はもう当たり前です。でも、これからは、他の見方も出てくるかもしれません。楽と便利だけがテーマでは無く、面白さもテーマになる。いかにしたら、面白いヨットライフを創造できるか?セーリングをいかにするか?

エンジンはどれに、プロペラは、マスト、セール、キャビン内部クッションの柄、装備の種類、いろいろあります。しかし、基本コンセプトを変えるわけではありません。ハルは変わらないのですから。でも、そういう仕様の選択の仕方によっては、使い勝手が違ってきます。

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