第六話 ヨットの違い

ヨットにはその用途の違いがあります。旅を楽しむ為のヨットとセーリングを楽しむ為のヨット、どちらも両方できますが、質は違う。そのどちらを楽しむか、どっちを重視するかになると思います。セールさえあればセーリングはできますが、それは速さだけの違いでは無く、質的に違う。質の良いセーリングに出会いますと、感じが違いますから、気持ちはグンと良くなります。セーリングが楽しくなる。

音楽は聴くものですが、でも、鑑賞だけでは無く、ダンスの為の音楽があり、BGMもある。それぞれにに無駄では無く、役目があり、価値があります。それぞれの音楽は、それぞれの役目において、深さがあります。複雑なフレーズ、複雑なリズム、或いは、単純の方が良い役目もあります。つまり、音楽もメロディーやリズムが異なるだけでは無いという事になります。

ヨットも同じで、キャビンヨットはキャビンをいかに有効に使うかという事に注意が払われていますし、セーリングヨットは、いかにセーリングの質を高めるかに注意が払われています。という事は、キャビンヨットのセーリングはセーリングヨットのセーリングとは質が違う事になります。また、キャビンヨットのキャビンはセーリングヨットのキャビンとは違う。想定する使い方が違うわけです。

これまでは、セーリングと言いますとレースしか頭に無かった。レースは速さを競う。クルーも集まる前提です。その腕を競うわけです。ところが、デイセーラーの台頭は別の様相があります。それはセーリングだけれども、レースにこだわるわけでも無く、クルーも必要としない事です。クルーの体重で船体を越して、という事は考えないので、抜群のスタビリティーがある。レースでは無いので、あくまでセーリングを楽しむ事が主体なので、速さだけを追求するわけでも無く、乗り心地や滑らかさなども重視されます。それが新しい価値観の創造であり、この新しいものを受け入れるには、ある一定の時間が必要でしょう。何よりレースにおけるレーティングなど、考える必要もない。ルールは公平を期する為に作られますが、人の常と言いますか、そのルールをかいくぐって有利に立とうと考えますから、ときには歪な物ができる事があります。

そういうルールには一切無関係なら、歪になる必要がありません。ですから、デイセーラーは見た目にも美しいバランスがある。キャビンの大きさに捉われる事も無く、ただ、セーリングをいかにと考えたデザイン。ですから、セーリングを楽しむならデイセーラーに限る。レーサーに競う速さがあるわけではありません。キャビンヨットに競う快適性があるわけではありません。しかし、セーリングにおいて、セーリングを楽しむ為に最高の質があると思います。勝つから楽しいわけでは無く、広いキャビンがあるから楽しいわけでもなく、ただ、セーリングして面白い。新しい価値観の創造です。容易な操作でありながら、高い質のセーリングが可能で、それでいて、難しい細かい調整するようなセーリングも可能です。

ある方が言われた事ですが、初心者か、又はベテランに良いヨット。初心者にはやさしい操作で、すぐに乗る事ができ、一方ベテランの方には、高いレベルの操作も可能です。その両方を満足させるヨット、中間の方々には、腕を上げる為に使う事も考えられます。兎に角、セーリングを遊ぶには最高ではないかと思う次第です。クルージングですから、セーリングはそこそこで良いという考えをお持ちの方も多い。でも、一度味わっていただきたいものです。もし、セーリングの質が同じなら、デイセーラーとしての意味はあまり無い事になります。そんなものに世界は高いお金を支払うほど、甘くは無い。

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