第六十話 うまい人

走らせるのが実にうまい人が居ますね。羨ましい限りです。いつかは自分もとあこがれます。何が違うのか?無駄な動きが無く、楽でありながら、でも、きちんと走る。ヨットは滑らか、人も滑らか。とっさの判断力もあり、何たって、美しい。

最も必要な事は観察力ではないか?風の変化の観察力、セールの観察力、舵と体の感じの観察力です。これらは長い経験から積み上げられてきて、自然に身についたものでしょうし、どこかで買う事はできません。こればかりは、ビルゲイツだってどうしようも無い。

このビルゲイツだってどうしようも無い程のものを手に入れる事ができる。これこそが、ビルゲイツに勝つ唯一のチャンスかもしれませんね。リッチ度では叶いませんから。

観察力を上げるには、観察する事しかありません。観察して、何か動かして、その変化を観察します。そういう試行錯誤で、より良いを求める。すると、自動的に、腕が上がり、観察力もそれに伴って上がる。地上では、本を読み、人の話を聞く。でも、それが昇華されるには、実践における観察が必要になります。

観察は目で見て行う観察と、体で感じる観察があり、その両方が要求されます。それらに集中していますと、やがては楽に集中できるようになり、そして鋭敏になり、わずかな変化さえも解るようになる。これらは、もちろん、腕と一緒に向上する事になります。最初は何も解らないかもしれませんが、徐々に、変化がわかるようになります。そして、うまくなればなる程に、その繊細さが楽に解るようになると思います。それで、解ると、より良くの為には調整したくなる。それで、また解る。レベルはどんどん上がりますね。洗練されていく。

あるアメリカのおばあちゃん。年寄りと馬鹿にできません。タックして、ウィンチを軽く2,3回まわしただけで、ピタリと決まる。すごい。ぜんぜんハッスルなんかしていません。うまいというのは、確かに鋭い観察力があって、その調整たるや1cm出してとか、そういうのもありますが、このおばあちゃんのように、楽に、スムースに、滑らかに、自由自在という事も重要です。何も、秒単位で、1cmきざみの調整をしなければならないわけじゃない。自分なりの面白さをセーリングの中に見出す事が重要かと思います。一見,、何も特別な事ををするわけじゃない。でも、滑らかなんですね。体が馴染んでいる。それがとってもかっこいい。多分、このおばあちゃん、体だけでは無く、心も頭も馴染んでいるんでしょうね。ゆったり構えて、あわてる事無く、みんな自然に動く。

人より、誰よりも速くとういう走り方もありますが、このように、自由自在という乗り方もある。突き詰めれば、もう数センチシートを引いた方が良いというプロの判断もあるかもしれませんが、そうでは無くても、自由自在を感じられる楽しさ。でも、そこに至るには、観察力、上達がその道中になり、それを楽しんできた者だけに与えられるご褒美でありますね。

まずは、舵の達人になりましょう。セールはほどほどにしてでも、舵に集中力を注ぎ、いろんな情報を感じ取る。舵の切り方、切るスピード、角度、舵のあやらゆることにおいて、達人になりましょう。
うまくなったら、自然に、無意識にできるようになると思います。

うまくなった方が、うまくなろうと思った方が、ヨットは絶対面白くなると思います。何もプロになるわけじゃなし、でも、やはりうまくなった方が面白い。実際、プロになるわけでは無いので、才能無くても良いわけですし、面白ければ良い。必要な才能は面白がる才能でしょうか。

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