第八十九話 セーリングこそが基本

ヨットが自分の生活の一部となる時、セーリングする事が特別な事では無く、趣味、スポーツ、楽しみ、という具合に気持ちの変化が現れる。それはきっとヨットで宴会する事や、ちょっと向こう側に行って食事してくる事にはならないと思います。これらはちょっとニュアンスが異なる。これらも楽しみのひとつではありますが、どうも今一という感じを持つのは私だけでしょうか?

しかし、セーリングをするとなりますと、セーリングが自分の生活スタイルに溶け込みますと、全然違った感じになるのではないかと思います。セーリングしている感じ、いろんな事が解ってくる感じ、上手になる感じ、セールフィーリングは、我々の生活には無いものであり、それを自分のライフスタイルに溶け込ませる事は、人生の潤いみたいなものでしょうか。

しかし、ただセーリングをしているだけでは、その日の天候具合に左右されるだけですので、もっと積極的なセーリングが望まれます。多くのクルージング派の方々が、ある程度乗れるようになれば、レースするわけでは無いからと、それ以上、セーリングしようとはされない。しかし、レースしないにしても、セーリングの妙はそこにあるわけで、セーリングは何もレースの為だけにあるわけではありません。セーリングの面白さがそこにあります。自分がレース派とかクルージング派とか、そんな事はどうでも良い事で、セーリングそのものに面白さがあれば、せっかくヨットやるなら、それを日常のスタイルとして楽しんで頂きたいと思います。

後ろの方から近づいてきたヨットにあっさり抜かれたら、あまりいい気分はしないのでは無いでしょうか?そういう気持ちは、何もレースでは無いにしても、楽しくは無い。ちょっと何かを知って、これまでのセーリングより、少しでもスムースなセーリングが出来るようになったら、そこに喜びを感じ無いでしょうか?何も、きわめて高度なセーラーになるわけでは無いのですが、今の自分よりちょっとセーリングがうまくなる。そういう事に喜びを感じ無い人は居ないのではないかと思います。

それで、日常の遊びとして、セーリング自体を楽しみ、その事は、知識の増加、それが腕に反映し、結果、感覚に響く。そういう遊び方を普段の遊びとして求めてはいかがでしょうか、といつも思っています。そういう事に意識が向きますと、見る目が違ってきますし、感じる方向も違ってくる。今まで気がつかなかった事にも気付くようになります。それが面白さかと思います。また、これまで風が弱くて退屈だったとか、ちょっとした強風に恐怖を感じたとか、それらさえも、面白さに変える事ができるかもしれません。そうなれば、自分の面白さの幅が広がるわけですから、より楽しむ事もできます。

面白さ、楽しさを、宴会や集いや旅に求めたら、そうしょっちゅうは乗れないかと思います。しょっちゅうでは逆に楽しさが失われるかもしれません。旅はしょっちゅう目的地を変えなければならない。でも、セーリングに面白さを求めたら、外見上は、他人には解らないかもしれませんが、自分の中では、いろんな変化があることに気づき、向上や小さなチャレンジさえ携えておけば、いつも面白さを発見する事ができる。それは、やった本人にしか解らない感覚でしょう。でも、日常的に、目の前の海域で出来る最も簡単で、面白いヨットライフなのではないかと思います。微妙な舵の操作、セールトリミング、そこから引き出されるフィーリング、これらを楽しむのが本来は基本なのではないかと思います。そこには、求めれば求めるだけの深さがありますから、超ベテランになろうとも、終わりは無い。

そういうスタイルになれば、ちょっとした時間に味わう事ができるようになる。ゲストを迎えた、セーリングさえも、のんびりスタイルであっても、何か気持ちは違ってくる。セーリングというものが解ってくると、いろんな事に余裕を感じてくる。セーリングをしますと、ヨットそのものが目的にもなります。ヨットで何か違う事をするというスタイルとは違って、ヨットだからこそできるセーリングというのは、セーリングという目的においてヨットは手段かもしれませんが、その目的と手段が一体となる。そこに自分自身も一体となる事ができたら、どんな感じがするでしょう?

何も遠くへ行くだけがヨットじゃないし、どこの海域であろうが、セーリングに浸るという事は基本中の基本であり、ヨットが最もヨットらしい能力を発揮する。たまたま、目の前の海域でそれをするというだけで、これを日常のスタイルにしてしまえば、他の事も違うニュアンスで楽しめるようになると思います。ですから、是非、シングルでも、ファミリーでも、仲間とでも、セーリングそのものを楽しむ事を考えて頂きたいと思います。そして、それを日常的な使い方にして頂ければと思います。

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