第十九話 秋 

徐々に季節は秋を迎えつつ、セーリングシーズンの到来に入ってきます。もはや日差しは真夏のようでは無いし、寒いわけでも無い。食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋と、秋という季節は、何をするにしても良い季節なのです。もちろん、ヨットの秋でもあります。年間を通して、最高の季節ではないでしょうか。

寝泊りにも寒くも無く、暑くも無く、みんなで語らうには、コクピットは最高のスペースになります。もう少し、秋が深まりますと、セーリングに出ると空気が少しひんやりして、気持ちも引き締まる。そういう時には特に、頭脳も良く働く。集中力も高まる。こういう時にこそ、セーリングを味わうには良いと思います。

上りギリギリを走る。一杯に引きこんだジブのテルテールが両舷ともきれいに流れ、わずか切り上げて、風上側のテルテールが少し上に上がる。また、元に戻す。ほんのわずかな角度であります。
切り上がりすぎても駄目ですね。落とし過ぎると角度が悪い。

そこに、風がシフトして、風向が変わる。また、その角度を追いかけます。ほんのわずかな舵操作、波もあるだろうし、なかなか難しい。テルテールをにらみながら、微妙な舵操作を、集中して楽しむ。ある程度走ったら、タッくして、再び新しいタッくでも行う。これが集中してうまくできるようになると、クローズホールドの走りがうまくなる。風向を意識し、その変化も意識しています。それに対する、ヨットの走る角度も意識して走る。

ブローが来たら、瞬間的ですから、シートを出すか、トラベラーを下げる。抜けたら元に戻す。ブローでは無く、風が徐々に強くなったら、バックステーを引いてフラットに、アウトホールを引いてフラットに、さらに強くなったら、どんどんフラットに。益々強くなったら、シートを出して、上部を開けて風を逃がす。その代わり、トラベラーでブームは中央に引き上げる。角度を稼ぐクローズホールドは、セールが引きこまれないと稼げないというのが基本にある。風が強くても、セールは引きこむ、その代わり、風を上部で逃がす。ジブも同様です。

こういう事を実際に、海で試しながら、クローズホールドを、ぎりぎりの綱渡り的セーリングを楽しむ。緊張感を楽しむ。これだけでも、結構楽しめるのではないかと思います。舵は非常に微妙な操作を要求されます。微妙でありながら、波等もあるわけで、かなりコントロールができなければ、すぐにはずれてしまいます。そんな緊張感はいかがでしょうか?

こんな事は夏の暑い時など、暑過ぎて、集中力にも欠けてくる。でも、秋は実に良い季節です。緊張感のあるセーリングですから、長い時間はできません。短い時間の集中を楽しむわけです。それで終わったら、ほっとします。全ての緊張から解放されます。そこの緊張と緩和の落差がまた良いわけです。

楽を楽しむには、緊張が必要です。楽だけなら面白さに欠け、緊張ばかりでは疲れてしょうが無い。その両方をバランス良く楽しむ。そして帰ってきたら、まずはコクピットでのんびりコーヒーでも楽しみましょう。今味わってきた緊張感が、心地よくほぐれてきます。うまいコーヒーが益々うまく感じられます。セーリングは楽しい、面白い、活き活きします。

物事には常に反対の面が無ければならない。ゆったりを楽しむ為には緊張も必要です。その緊張も緩和も両方楽しめるようにできれば最高ではないかと思います。それには、自分の意図で緊張感を創る事ではないでしょうか?綱渡り的クローズホールドは、かっこうの走りではないでしょうか?

もちろん、アビームにおいても同じように、緊張と緩和を味わう事ができる。舵は真っすぐ方向を決め、何が何でも真っすぐです。それに合わせて、セールトリムをする。風が強くなったり、方向が変わったり、その変化を感じ取り、できるだけ合わせていく。ここにも緊張が生まれます。綱渡り的な緊張とは違いますが、集中していなければなりません。

こんな面倒な事はお嫌いでしょうか?でも、たった2時間程度、否、1時間でも、30分でも良い。こういう緊張感を持ってセーリングしますと、実に充実感が湧いてきます。その味わいはのんびりも良いけど、その比では無いように感じます。

結局、セーリングの面白さはこの集中イコール緊張感にあると思います。そして、何故か、セーリングという行為は、我々の集中力をいとも簡単に高めてくれる。風が無いとこうはいきませんが。
微風で緊張感を保つのは難しい。これは上位レベルでしょうね。まあ、何しろ、秋は最高の季節、何か新しい事にチャレンジするには良い季節ではないでしょうか?

次へ       目次へ