第18話 造船所の意図を見抜く

世界には一体いくつの造船所があるのでしょうか。皆が知っている大手のブランドから、小規模の
カスタム艇まで、想像もつかない程の造船所があります。そして、全ての造船所は何らかの意図
を持ってヨットを建造しているわけです。その意図がどんなものであるかは、自分のヨットの選択に
多いに役に立つのではないでしょうか。

欧米で誰でも知っている大規模造船所は小さなサイズから大きなサイズまで、バラエティーに富ん
だモデル群を建造しています。ヨットがどうかという前に、この大量生産という意味を考えてみます
と、大量に売れる、という事はマーケットの中で特殊では無い、最も一般的な使い方をされるヨット
という事になります。モデル数も多く、選択幅が広い、価格も安い、こういう一般的なヨットは海外で
はチャーターヨットにも多く使われています。

次に来るのが、同じ大量生産艇ではあるものの、規模は少し小さくなり、価格も少し高い、しかし、
大規模生産艇との差別化を図り、自社の特徴を出そうとします。例えば、セーリング性能がより高
いとか、デザイン的な差別化、ある一部分において特殊な構造や素材を少しおりこんで違う何かを出
そうとする。少しの違い、少し高い。

さらに小規模生産の造船所となると、外洋性の強調というのがあります。つまり、船体のより硬い
構造、素材、工法のアピール、さらに、ここまで来ると全体的にグレードアップしたバランスを持つ為
全体的な使用素材、工法等々が高い品質を持つようになる。しかし、同時に、価格も跳ねあがる事
になります。しかし、外洋性を重視して、頑丈に造るという次元で、重いヨットとなってしまう。そして
さらに、外洋性を保ちながら帆走性能さえも良くしよう、という事はそれだけ価格も高い。こういう図
式となってきます。

さらに次の段階では、外洋性はもちろん、使用素材もあらゆる部分において高品質素材を採用し、
小規模生産において、最高の品質を出そうとする。プロダクション艇では最高の部類でしょう。

そして、次にセミカスタム、船体とデッキは既成となりますが、リグ、内装、装備、後は全てオーダ
ーにて建造する。

そして究極はカスタム艇です。オーナーのコンセプトをデザイナーと話し、それに見合った艇を建造
する。まさしく究極です。通常はこういうヨットは非常に高いので、品質も全てにおいて最高のものを
使おうとするのが当たり前、価格も高い。オーナーがどういう使い方を希望しているのか、どのような
デザインを好むのか、それらをとことん突き詰めての建造ですから、最高のヨットができあがります。
しかし、注意すべきはここのコンセプトはオーナー側に主導権があり、デザイナー/造船所は、それ
を見える形にする。つまり、オーナーにとって最高であり、必ずしも皆にとって最高かどうかは別の問
題です。

もちろん、下の段階に行くに従って、価格が高くなります。検討される造船所がどこに位置するか、ど
んな意図を持っているか、全体を見て判断すると良いと思います。ヨーロッパでは航行区域を判断す
る目安としてヨットのカテゴリー化をしています。Aが最高グレードのオーシャン、Bは外洋、Cは沿岸
そしてDが囲まれた区域(湖など)、おおまかにいってこういうカテゴリーがあります。実際はもっと細
かい分類があるのですが。

結局、全てはデジタル的にどこかの分類に入るわけでは無く、アナログ的であります。ただ、アナログ
的なレベルで、どのあたりに位置するヨットなのか、そしてそれが自分の意図する所と合うかという事
アルデン、ヒンクリーなどは世界最高のヨットなのか,というとそうでは無い。品質は良いしかし、価格
はものすごく高い。だから最高では無いのです。世界最高とは最高の品質をもって、すごく安いという
事です。それでそういうヨットはありえない。つまり、全てにおいて最高のヨットなど存在しない。という
事は、全てのヨットが良いヨットなのです。どこかが優れている。だから売れる。存在理由がある。ただ、
一般的に良いヨットは優れている点が多い、でも優れた部分を必要とするかどうか。

価格は品質に見合うと思っています。だから、同じ価格帯のヨットをピックアップして、その中でクルージ
ングとレースとの比率具合をどのように考えているかを想像して、つまり各艇のデータを比較して、好み
をしぼり、最後は自分の好き嫌いで決める。

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