第19話 セミカスタム艇

以前、セミカスタム艇をお世話した事があります。その時はデザイナーを先に決め、それなりの
理由があったわけですが、そのデザイナーの紹介で造船所を決めました。その造船所が、この
デザイナーのデザインした艇のモールド既に持っていたという事でセミカスタムという事になった
わけです。

このデザインはこのデザイナーの理想とするものであったわけですが、それが一般のプロダク
ションの造船所では実現できないという理由で、小さな造船所を使って、自分の理想を実現し
ようという意図だったようです。そして、オーナーの意図とピッタリ合ったという事で、ここに決定
したわけです。

デザイナー曰く、これまで多くのデザインをしてきたが、その多くが自分のデザインしたままで、
建造される事はなかった。つまり、造船所は売る為にフリーボードを高くしたり、船型を少し変え
たり、基本的には自分のデザインではあったが、私の理想したデザインではなかった。

この造船所は5〜6人程度、こちらの要求を事細かく出し、それに対してデザイナーが何度も図
面を引き、そして決定したら、細かい装備の打ち合わせ、途中変更もしょっちゅう、納期もどんど
ん遅れ、オーナーは怒り浸透。造船所曰く、我々は金儲けだけの為に建造しているわけでは無
い。金儲けが主たる目的なら、こんなカスタムはやらずにもっとたくさん造れるようにする。我々
はより優れた、最高の艇を造りたいんだ。だから、さっと仕事を片付けて、支払いを得るのは簡
単だが、それは私の意図ではない。だからわかってほしい。

結局、1年半ぐらいかかったでしょうか。年に2艇程度しか造れない、場合によっては1艇かもしれ
ない。それでも彼らは好きで造っている。そんな造船所でした。

そして、完成。確かに、素晴らしかった。裏の裏まで見事に美しく、入念に造られ、走っても最高
これまでに無い走りを見せた。船体にはブランド名も無く、カスタムらしくラインも入れなかった。
どこから見ても、どこの何という艇かは解らない。それが最高の走りを見せた。オーナーからも
熱い感謝の手紙を頂きました。とても嬉しい瞬間でした。さんざんオーナーには怒られ、造船所か
らも理解を求められ、間に挟まれとても苦しかった。しかし、最後は最高だった。皆、最後は幸せ
になれた。

造船所のおやじが言いました。”最後はきっとオーナーはハッピーになるはずだ。だから、今は
我慢して、オーナーをなだめてほしい” 

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