第76話 セーリングを感じる

自然に溶け込むという目標を持ったら、セーリングを感じましょう。知識でスタートして、感じるのが目的です。
海は満潮があり、6時間後に干潮がきて、そのまた6時間後に満潮がくる。風は気圧の高い所から低い所に
吹く。空気の温度が上がれば上昇し、冷たい空気は下に落ちてくる。これらあたりまえの知識は感じるものと
して自然にわかるようになれば良いですね。知識が知識である時はまだ感じていない。でも、感じられるように
なれば、知識では無くなる。そうなれば良いなと思います。それにはたくさんセーリングする事ですね。

舵を持つとティラーなら波を感じる事ができます。水の動きがダイレクトに舵を通じて、ティラーに伝わり、手を通
じて感じられます。これがティラーの良いところです。微妙な波の動きが伝わってくる感じはいいものです。
セールを出すと風を感じる事ができます。風に向かって走る事ができるなんてすごい事だと思いますが、理論
的な話は知識として知る事が大切ですが、別に知らなくても良いのです。せールを内側一杯に引いて、舵を操
作して少しづつ風に上らせる。もうこれ以上上らせるとセールの裏側に風が入ってくるというぎりぎりの角度が
そのヨットの上りに対する限界です。もうこれ以上は風に切りあがれない状態です。風は実際の風速に加えて
ヨットが進んでいる速さ分だけ風速が速くなります。より風を感じることになります。この時、風向風速計があれ
ば本当の風の速さとヨットが進む事によって増加する風の速さの両方が明確にわかります。それに風向も変化
します。本当の風向とはヨットが停止した状態での風向で、ヨットが走り出すと、その分風は前方側へ移動して
いきます。ヨットは自分自身で風を作っているわけです。風向風速計とスピード計があればどのように走ってい
るかが客観的に解ります。実際はたいしたスピードは出ないのですが、どういうわけかヨットに乗ってのスピード
は陸上でのスピード感とは全く異なり、より敏感に感じられるのです。

風向かって走ると船体は傾きます。時おり強い風が瞬間的に吹いたりして、傾きが大きくなったりします。風は
山や島などの地形の影響を受けて風向が変化したりします。そういう変化に対して、セールを少し出したり、舵
を少し動かしたり、操作をすることによってヨットは安定した走りを見せます。そういう操作の知識はやがて、感じ
るものとなり、頭が動かず体が動くようになります。そうなれば頭は使わない。頭を使わない、何も考えないとき
ってあるでしょうか.あっても一瞬ですね。でも、ヨットに乗って体が動けば頭は何も考えず、集中している。頭は
知識であり、理性であり、理論を得意としていますから、これが無くなると、後は感じるだけです。

ティラーを少し引いて、今度は風に対して角度を少し落としてみます。それに合わせセールは少し出す。セール
は向かってくる風がセールの表面をスムースに流してやることが大切です。目一杯受けて押されて走るというの
は昔の帆掛け舟で、効率は良く無い。前から後ろにスムースに流れるようにセールの角度を出したり引いたりす
るわけです。適切な角度に設定されたセールは美しいカーブを描いています。さらにティラーを引くと、風は後方
からヨットに吹きつけることになります。風と同じ方向に走っているため、のぼりの時に感じた風の強さはヨットが
移動した分弱まった感じがします。スピード計があれば、どの角度が最もスピードがでるかがめ明確にわかりま
す。

波が出てくるとその波の大きさによって、船体は揺れます。正面からの波には上下に揺れて、波の力でスピード
が落ちる。

風に対して上り角度が良いヨット、軽いヨット、重いヨット、船体剛性の高いヨット、そうではないヨット、船艇が平ら
なヨット、深いヨット、キールが深いヨット、浅いヨット、幅が広いヨット、狭いヨット、水面から上が大きいヨット、小さ
いヨット、重心が高いヨット、低いヨット、セールが大きなヨット、小さなヨット、これらにそれぞれの特徴があり、また、
お互いに複雑に影響しあっている。その総合がヨットなのです。こう考えるととても難しいものですが、それらをある
目的で統一させて全てを束ねているのがデザイナー及び造船所の建造コンセプトになります。ですから、一部が
他の一部と全く異なる物を合わせ持つような造り方はしないものです。だから全てを知る必要は無く、コンセプトを
理解すれば良いのです。レーシングヨットのコンセプトは速いという事になりますが、それなら重い船体にはしない
ものです。外洋がコンセプトならひ弱な船体は作らないものです。

自然をどのように感じるかに相応しいヨットがあります。それを見つけられると、より効果的です。要は自然を感じる
事はどんなヨットでも可能です。ただ、それに効果的かそうでないかの違いがあるだけです。

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