第三十三話 目的地を設定する

デイセーリングには目的地が無いと言いましたが、これはあくまで旅に対する言い方で、セーリングする時に、何となく、適当に走るというやり方もありますが、目的地を決めて、つまりコースを決めて走るという楽しみ方もあります。これは、何も旅のように遠い所という意味では無く、近くに島でもあれば、島周りとか、ブイがあれば、その方向に向かうとか、つまり、走るコースを決めるという事で、目的地を決めれば、走るコースにも、何故、このコースを走るかという理由が出来る。

走るコースの理由ができたら、全てに理由ができてくる。何故、今タックするのか、何故、今角度を少し落とすのか、みんな理由ができます。それが正しい判断だろうが、間違っていようが、取り合えず自分の中に理由ができるので、その理由と自分の判断をも遊ぶ事になります。

クローズを走る時、取り合えず、今吹いてきている風の方角の先に目的地があると仮定します。すると、ポートタックで近づくか、スターボードタックで近づくかは、どっちでも同じ条件になります。
仮に、どっちかを選んで走り始める。より目的地に早く近づく為には、できるだけ上った方が良いわけで、でも、風が弱いとスピードが出ないので、少し角度を落としてスピードを上げてから、角度を稼いだ方が良いかもしれないという判断もあります。

或いは、充分なスピードを得ているなら、舵でギリギリを狙っていくという判断もあります。そこに、風向が変わる。クローズの走り方は、その風向の変化に追随しながら舵操作をする事になります。そして、風向が目的地に対して、より上れる、近づける方向にシフトするなら、舵で合わせていけば、どんどん近づく事になります。しかし、逆に、風向が、目的地から離れる方向にシフトするなら、
右から近づくか、左から近づくか、どっちの方が、有利になるかを考えます。つまり、タックのタイミングを測る事になります。

クローズの走り方を遊ぶひとつの方法かと思います。何気なく、定まらないコースで走る時は、こういう理由が出てきません。それはそれでも構わないと思います。でも、例えば、30分くらい、そういうコース設定をして遊んでみるのも面白いかと思います。

クローズを走る時、風向の変化だけで、風速の変化が無いならば、セールは一旦適切にセットしたなら、扱う必要は無くなります。コース取りの舵操作のみです。でも、敢て言うなら、タック後にスピードが落ちますから、落ちるという事は見かけの風速は変化している事にはなるんですが、タック後にすぐにぎりぎりに上るのでは無く、一旦少し落としてから、スピードをつけて上るという事もあります。或いは、強い風で、そういう必要は無いという判断もあります。これはオーナーの判断。その判断を遊ぶ事になります。

どう判断しようが自由ですから、この目的地を決めるという事は、自分の判断を遊ぶ要素に取り入れるという事になると思います。全ての行動には理由ができるという事になります。

当然ながら、風向も変化すれば、風速の変化するのが当たり前ですが、同じ上りコースを取っても、上記の風向の変化に加えて、風速の変化も出てきます。そこで、セールは風速に合わせてやる必要があります。

セールは出す角度と形の変化というふたつの要素があります。出す角度は、上りを走るなら、引き込んでいる状態です。上りたいのに、セールを出したら上れなくなる。ですから、角度はあくまで引き込んでという事になります。しかし、風速が強くなったら、そのままではオーバーヒールするかもしれません。風速何メートルでそうなるかは、そのヨットのスタビリティー次第。オーバーヒールするのなら、角度はキープしたいが、風を逃がしてパワーを抜くという事を考える事になります。

パワーを抜く前に、クルーが居るなら、風上側のサイドデッキに座らせて、彼らの体重で起こすというやり方をレースの方がやりますが、まあ、セーリングを楽しむという点においては、してもしなくても良いと思います。

パワーを抜く方法は、バックステーアジャスターを引き込んでセールをフラットにする。それでもオーバーヒールするなら、セール上部をひねって、上部から風を抜くという方法を考えます。ジェノア、メイン、それぞれどうやってそうするかを考えておきます。そこで、ジェノアはトラックのリードブロックの前後移動が活きて来ます。ブロックを後部に下げて、リーチ側のテンションを抜くと、セール上部は開いていく。より大きなツイストができる。メインセールはシートを出したらブームが上に持ち上がるので、リーチが開く。でも、同時にブームは外側にも開くので、角度をキープする為には、トラベラーでブームを内側に引き込む必要があります。

つまり、ジェノアもメインも、上部で風を逃がして、下部で角度を稼ぐという事になります。これに、もっと突き詰めていきますと、ドラフトの位置が後ろ側に下がっていないか?とかそういう事もあります。

目的地が設定されると、コースを決める判断が出てきて、コースを判断すると、セールの操作の判断も出てきます。面倒くさいと思う部分までやら無くても良いし、だけど、一部でも、30分でもやってみますと、それなりの複雑さと面白さが出てきます。自分の判断にはちゃんとした理由が出てきます。何気無くタックするのとは違います。

たまには、そういういセーリングも織り交ぜてはどうかと思います。すると、知識ももっと必要になりますし、それは判断を促し、腕も必要になってくる。そういう遊び方も面白いのではないかと思います。

クローズから落として、目的地が、その落とした状態で一直線に狙える場合、舵操作は風向の変化に関係無く、目的地にできるだけ真っ直ぐ走るように舵を取る事になります。対処するは、セールです。風速に合わせてセールを整える。風向変化に合わせて角度を変え、風速に合わせて形を変える。

ダウンウィンドになりましても、目的地に一直線に狙えるなら、舵は真っ直ぐ。まあ、その時の判断として、それでもジグザグコースを取った方が早いという判断もありますが。真後ろからの風は帆掛け舟と一緒で揚力が発生しないし、ジグザグコースを取る。その場合、それは上りと同じ考え方の下りコースという事になります。

面倒くさい事はしたくは無い。しかし、ちょっとこういうコース取りも遊びの要素に取り入れる事で、面白さの様相が違ってくる事もありますので、面倒くさいと思っていた事が、案外、面白いに変わるかもしれません。やってみて損は無いと思います。やると理由が出てきて、ひとつひとつがより深く考える必要性が出てきて、この事がより深く解るという事に繋がり、それが腕を上げて、より深いフィーリングが味わえてという事に発展していく事になります。でも、必死にならずに、気楽に楽しみながらやるのが、長く楽しむコツではないかと思います。

こういうセーリングは、ゲストと一緒ではなかなかできません。クルーが居る時なら良いかもしれません。そのクルーがビールばかり飲んで、世間話ばかりするのなら、もはやクルーでは無くゲストですね。でも、シングルなら、いつでも自分次第で、自由自在です。これがシングルをする理由でもあります。良い相棒が居るなら、それも良いと思います。

相棒と書きましたが、自分の乗り方に同調してくれる相棒です。クルーは本来はオーナーの指示に従うものです。昔はみんなそうでした。しかし、最近では、必ずしもそうとは限らないようです。オーナーがクルーに気を使ってという事も多いようです。誰がオーナーであるか解らないような事もあるようです。それでは、オーナーはオーナーとして思い通りのセーリングをする事ができません。それなら、敢て、クルーにこうしろとは言わず、シングルを目指した方が良いと思います。それがシングルを目指す理由です。

レースでは、クルーを含めた全員が勝つ事を目指します。目的が一緒ですから良いのですが、セーリングを楽しむという前提の場合、必ずしも目的が同じではありません。そうなりますと、それぞれが違う事を目的とすると、オーナーは自由に目指す事はできなくなります。或いは、オーナーは最初に、自分の主旨を伝えておくかです。でも、オーナーとしても途中で気が変わる事もあります。いつも、クルーとオーナーの立場が明確なら良いのですが、遊びの中では、和気あいあいが相場ですから、そういう事をオーナーが目指すなら良いのですが。レース以外でのオーナーとクルーの関係というのは、案外難しいものかもしれませんね〜?コース設定をしたセーリングをと考えても、クルーがその気にならなければならないし、そうやってクルーにも楽しんでもらわなければなりません。ですから、人数が多くなればなる程、難しくなります。

それに、オーナーよりクルーの方が経験が長かったりする事もあります。すると、どうしてもオーナーがリーダーシップを取る事が難しくなる事もあると思います。クルーはクルーとしての心構えが必要なのでしょう。でも、こんな面倒くさい事よりも、シングルなら簡単です。もちろん、気が合うクルーとのセーリングも面白いし、シングルとは違う様相があります。気が合う、オーナーとクルーの立場等々、互いのコミュニケーションと理解が必要ですね。そして、互いに自分の立場で楽しめないといけません。

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