第十五話 変えられないもの

変えられないものはそのまま受け入れるしかありません。それだけに、その特徴を知る事は必要かと思います。それが全ての基点になるからです。

船体はその形を変える事ができません。その重量もしかり。キールの形状や重さも同様です。という事で、船体によって、そのヨットの特徴が表され、コンセプトが決まります。そのコンセプトに合わせて、マストが造られ、セールもそれにならう事になります。

造船所はこの船体しか作りませんが、この船体こそが、このヨットの基本を表わしてもいます。ヨットをどんなコンセプトにするか?それは殆どは造船所ごとにだいたい決まっています。例えば、外洋艇と沿岸クルージング用の両方を造る造船所は無い。両者は似ているものの、その性質がかなり違います。ただし、稀に、1艇のみレーサーを作るとか、デイセーラーを造るとかそういう事はあります。しかし、それとて、通常の造り方、品質を踏襲していると言えると思います。例えば、量産艇の造船所が、とんでもないレーサーを造る事は無い。でも、スポーツ系はある。でも、造り方は同じような造り方になります。

従って、造船所ごとに、そのコンセプトと品質はだいたい決まっていると思います。ですから、どこが造るヨットかという事で、だいたいは判別がつけられるのではないかと思っています。何故なら、造る人間は同じだからです。造り方もだいたい同じです。まるっきり工法が異なるような事は混乱を招きますから。

さて、造る前にコンセプトは決まっています。すると、サイズに対する重量も幅もセーリング性能も、スタビリティー等もだいたい決まってきます。後はどう見せるか?そこで、水線長が延びたり、幅を広げたり、そういう小さな変化はありますが、だいたいは同じでしょう。

最もポピュラーなのは、沿岸クルージング用のヨットです。それが外洋艇を造るとか、セーリング重視のヨットを造るとかになりますと、状況は変わります。外洋艇は頑丈であるばかりか、波に対して柔らかいとか、セーリングに関しては多少鈍いぐらいで、兎に角、時化の中を走り抜ける、しかも、できるだけ人間にかかる負担を軽減できるように考えるでしょう。何しろ、延々と遠くまで走るのが外洋艇で、時化ると解っても、逃げ込む場が無い事が想定されます。そして、多少は重いぐらいの方が良い。何しろ、長期クルージングには多くに荷物が積み込まれる事が前提で、軽いヨットでは、荷物が多くなると、その性格が変わってしまうからです。

一方、セーリングを重視しますと、軽い重量を要求し、でも、船体は頑丈、堅いのが必要になります。何故なら、波に負けて船体がねじれるというのは、セーリングにおいてスピードに影響を与えますし、フィーリングにもおおいに影響を与えます。ですから、軽く、でも堅くです。船体が柔らかいと、例えば、バックステーを引いても、ある程度から全く効果が無くなり、調べると、マストが曲がるのでは無く、船体が持ち上がっているという事もあるぐらいです。

外洋艇もセーリング重視のヨットも、そのコンセプトにおいて高い性能が望まれます。それらは見えない部分での品質を意味するし、性能を意味します。ですから、こういうヨットは見た目以上に高価という事になっていきます。但し、どこからが外洋艇で、どこからがレーサーでという明確な線引きはありませんので、見る側が判別しなければなりません。

また、ヨットにはスタビリティーが重要かと思いますが、外洋艇の場合、多少重い方が良いわけですから、重いキールを設置しても問題は無いわけですが、セーリング重視となりますと、重いキールで全体重量が重くなりますと問題です。かといって、その分船体の積層を薄くしたりしますと、これも問題になる。船体が弱くなってしまう。そこで、クルーがたくさん居る前提なら、キールが軽くても、クルーの体重でキール代りに、風上側に座らせて起こす事もできます。しかし、クルー無しの前提なら、キールを重くするも船体はさらに軽く、でも強くしなければなりません。

フルセールで、クローズを走ります。セールをセットして、どの程度の風速までそのままフルセールで走れるでしょうか?高いスタビリティーのヨットは、より風速に対するキャパシティーが大きいですが、低いスタビリティーでは、クルーが居無いとしたら、早めに風を逃がし、早めにリーフをしなければなりません。ヒール角度25度程度で、フルセールセールで走れる風速はどの程度なのかを知る事は、セーリングのマネージメントをするにあたっては知っておいた方が良いと思います。

セーリングを楽しむにあたっては、クルー体重をあてにしない限り、高いスタビリティーは重要かと思います。俗に言う腰の強さです。それがあるかないかでは、セーリングに大きく影響を与えます。

その他、舵の軽さとか、船型とか、波に対する叩き具合とか、いろいろありますが、セーリングを楽しむというのは、レースの順位を重視するのとは違い、セーリングのフィーリング重視だと思います。ですから、スピードのみならず、スムース感、舵の軽さ、レスポンスの良さ等々が重要になると思います。これらはデザインによるし、また船体の堅さによる。目には見えない部分です。
どこまで求めて建造されたヨットかによって、同じジャンルでも違ってきます。それはその造船所の他のヨットがどんなであるかによってだいたい判別はつけられる。

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