第四十七話 外洋艇

外洋へ行くのは簡単ではありません。長い経験を積んだ方が、そういう準備をして出られます。そういう方は既に、何が必要であるかもご存知ですから、我々がとやかく言う必要もありません。ですから、このTALKでも殆ど書く必要も無いと思っています。

ただ、稀に、沿岸用のクルージング艇を、その大きさで判断して外洋艇と思われている方もおられますが、これは勘違いです。但し、どこからどこまでが沿岸用で、ここから先が外洋艇とかいう明確な線引きはありません。ヨーロッパで、CE規格なるものが出てきて、そういう範疇をAとか、Bとかで分類したりしていますが、どうもこれはあてになら無いような気がします。何であれがAなの?と疑問に思う事もありますので、詳しい資料を読んでの事ではありませんので、何か違う規格があるのではないかと想像しています。

沿岸用のヨットで外洋にいけませんという事は無い。行けるでしょう。実際に行ったのもあります。しかし、楽では無いでしょうね。それにあるヨット、1度の航海で、かなりあっちこっち曲がったりしていました。それでも行けたには違い無いのですが。そういう薦めかたはできませんね。

俗に言われる外洋艇というのがあります。造船所がそう言っているのですから、そうなんでしょう。
確かに、造りは違う。これもどこまでがどうだったら、いかなる時も大丈夫とか言う保証はありません。完全なるものは無いので、最後はオーナー責任になります。ですから、オーナーは外洋とは言ってもいろいろですから、それに合わせて、検討する事になります。

かつて、ロングキールは外洋艇として絶対という時代がありました。確かに、頑丈で、直進性も良いし、波に対しても非常に柔らかいので、オーナーの体の疲れを軽減するでしょう。ロングキールが常識だった時代があります。その後、誰かが、フィンキールで外洋に出て、良くデザインされた艇はフィンキールでも大丈夫なんだと証明して見せました。その後、フィンキール艇でも外洋艇として建造されるヨットが出ています。こういうヨットはセーリング性能を高め、外洋艇であっても、足の速い方が、1日の走る距離を稼げるという考え方を示しています。それに何しろ、通常のクルージングにおいても使い易い。このあたりは、オーナーの考え方です。

こういう外洋艇は、一般量産の沿岸用ヨットより、値段が高いです。1.5倍から3倍以上ぐらいするのもあります。コストをかけようと思えば、キリがありませんね。これもオーナー次第であります。
そして、多くの場合、プロダクション艇であっても、多くのオプション設定を設けて有ります。それで、出来る限りオーナーの考え方に対応しようとします。ベテランが買うヨットですから、過去の経験から、思うところがたくさんある方々ばかりが対象となるからでしょう。

リグはどうするか、ファーラーは?ひとつひとつを検討して、どういうスタイルにするかを決めます。それでも、プロダクション艇ですから限界はあります。まあ、ほとんどは間に合うと思いますが。でも、もっと何かを、という事でセミカスタムがあり、もっとなら完全カスタムがある。

セーバーヨットはそんなプロダクションの外洋艇、セミカスタムではモーリス、アルデン、ヒンクリー、彼らは、場合によってはカスタムも建造します。完全カスタムは大抵は大型艇で、超高価。ここまでは、日本に入る事は殆どありませんが、最近では少しプロダクションの外洋艇も見られるようになってきました。サイズに対する価格という面だけを見ますと、沿岸用量産艇と比べ、とっても外洋艇なんか買えません。しかし、少しづつ違いが知られるようになってきたという事でしょうね。

セーバー40というヨットを日本に進水させていますが、殆どをご夫婦で乗られます。プラス愛犬です。奥様はヨット経験ゼロでしたが、ある時、クルージングの帰り、かなり時化ていたそうですが、この奥様曰く、全く恐怖感無く、帰ってくる事ができましたとコメントを頂きました。こういうところに違いが出てきます。穏やかな時ばかりなら、何でも良いんですが。

多くの方々が、引退後には時間たっぷりですから、外洋の旅に出たいと思われている方も多いようです。是非、実現して頂きたいです。欧米の人達は、日本人よりも遥かに多くの方々が実行されています。それも何年も旅を続けているという人も多い。急がない旅です。年取って、動けなくなったら、ヨットを売って国に帰るという人も居ました。80歳を越えた人も居た。国を出たのが確か7年前だったとか。でも、大抵は、奥さんも操船ができて、良く動く。夫婦の旅が多いようです。

でも、欧米ではそういう人達ばかりかと言いますと、そうでも無い。彼らは一部の方々。その多くは、やはり近場で楽しんでいます。ピクニックが多い。キャビンを別荘代わりに使う人も多い。彼らは、キャビンの使い方が上手です。当然、動かないヨットも多い。日本ではキャビンがあまり使われていませんね。多分、国民性の違いなのでしょう。リゾート地のプールサイドで、何時間でも読書ができる人達ですから。日本人とは違います。

それで、私としては、日本においては、ピクニック、セーリング、沿岸クルージング、外洋クルージングと意識してわけることで、使い方を明確にした方が良いのではないかと思っています。日本人には別荘的使い方は得意では無いように見えます。キャビンは旅の為にあると思います。ですから、別荘的使い方は難しい。

よって、ピクニックからセーリング主体、1泊、2泊程度のクルージングを含む乗り方としては、キャビンはあまり重要では無く、それよりセーリングに重きを置いて、それ以上の長いクルージングになるのでしたら、沿岸用か外洋艇のキャビンで、外洋ならもちろん外洋艇です。私としては、フィンキールの外洋艇をお奨めしています。それにこういう艇なら、沿岸でも煩わしくありませんし、時化た時は本当に頼りになります。

あのヨットは良い、このヨットはボロだとか、一言で片付けられる方がおられますが、用途が違うんですね。価格もそれに応じています。その用途において充分使えるヨット、用途以上に余裕で使えるヨット等いろいろです。でも、外洋となりますと、やはりリスクは高いですから、それなりのヨットである必要性がある。冒険度を高めたい人は別でしょうが。

メインテナンスなんかする場合、通常は見ない裏側を見ます。そうしますと、良く解ります。船体ばかりでは無く、部品等がどのように設置されているかとか。そのひとつひとつが品質になりますね。
ですから、質を言う場合は、素材のグレードもありますし、構造、工法、工事の仕方等が非常に大きな差を生むと思います。これらは、職人の人件費が大きい。でも、ある外洋艇の造船所ですが、どれだけ手間をかけているかという事を強調していました。それがどれだけ質に影響するかを物語っていると思います。ですから、外洋艇は高価です。仕方ありませんね。

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