第五話 概要

セーリングには二種類の知識が必要です。ひとつは今走っている状態で、その時の風向や風速に対して、適切なセールトリムをするという事。もうひとつは、ヨットの走るコースをどう取るかという事です。通常は前者を意識しています。後者はレースぐらいですね、意識するのは。でも、これらふたつの要素をあえて取り入れる事で、面白さを演出する事ができます。

前にも言いましたが、いろんな環境的条件は、必ずしも望む通りにならないわけで、むしろその方が多いわけですから、向こう合わせのセーリングでは、面白さを味わうという事が少なくなります。それで、敢て、いろんな要素を設定して、面白さを演出しようという話です。

セールを展開して、とりあえず適当な方向に走り出します。ジブシートとメインシートを適当にセットして、良い風が吹いていれば、それでもそこそこ走る、良い気分にもなります。適当なところで、タックして、方向転換をします。また、適当な距離を走ります。

風が強くなったら、シートを出します。そうやってセールトリミングをします。でも、待てよ、さっきから走る方角は変わって無いし、風向も変わってはいない。でも、シートを出すと風は逃げるが、セールの風に対する角度も変わっている。

ヨットが走る時、風が吹いています。風は風向が変わる事もありますし、風速が変わる事もあります。そして、ヨットはその風向に対して、どんな角度で走っているのか?風向と風速と、そして自分のヨットが走る方角、この三点意識します。

風向が変われば、対応の仕方はふたつ。ヨットの針路を舵で変えて、風向が変わった分、また同じ角度になるようにヨットの針路を変える方法。これですと、風向が変わっても、ヨットが追随していきますから、ヨットから見た風向を変えないで走る事ができます。という事は、セールを調整する必要は無いという事になります。

風向が変わってもヨットの針路は変えません。そういう時、ある目標点に向かって真っ直ぐ走る時、風向が変化しても、舵操作は真っ直ぐ目標に向かいます。という事は、風向が変わるわけですから、風向が変わったので、セールの角度も変えましょうという事になります。このふたつは風向が変わって、違う対応の仕方をしています。それは、ヨットが走る目標点によって、対応が異なります。つまりは、コースの要素を取り入れています。風向が変われば、針路を変えるか、セール角度を変えるか、どっちで対応しますか?という問いには、自分の意図で選択します。それはどういうコースを走っているのかに寄りますね。

今度は風速が変わります。針路は変えません。風速が変わりますと、対応はセールの形状を変える事で対応します。でも、針路は変えないので、風向は変わりません。という事は、セールは形状は変えますが、角度は変えませんという事になります。

そこで、セール操作は、セールの角度を変えるが、セールの形状は変えませんというケース、セールの角度は変えないが、セールの形状を変えますというケース、そして、セールの角度もセールの形状も、両方変えますという三っつが考えられます。これらは、いっしょくたに考えるべきでは無く、別々に考えるべきかと思います。角度を変えたいのか、形状を変えたいのか、或いは両方?何故、そうしたいのか?

ジブシートとメインシートを使って、引いたり、出したり。よくやるケースです。でも、良く見ますと、シートを出せば、セールは外側に出ます。同時に形状も変わっています。角度と形の両方を同時に変える。それがシートです。そうしたら、もし、角度だけ変えたいのに、或いは形だけ変えたいのに、と思う時はどうするか?また、何故、そういう選択をしたいのか?

そういう事が理解されて、解ったうえでやる、操作する。そういう方が、面白いのではないか?何気ない操作は何気ない結果を得て、何だか解らない。たまたま走るかどうかを見ています。でも、理屈が解って、理由が解って操作しますと、結果は何気ないどころか、ちゃんとした反応を見る事ができる。それが上手く行ったかどうかを観察して、それを面白がる事ができる。

そういうゲームのルールを意図しましょうという事です。自由に、何しても良いという場合、一見良いようで、でも、それはルールの無い野球やテニスをすするようなもの。ルールがあるからこそ、その枠内で最大限を求めるからこそ面白いわけです。

もし、ヨットは風上、しかも真正面からの風に対しても、セーリングで上る事ができたら?確かに、これは便利であります。でも、ゲームとしては面白くなくなる。間違いなく。できない部分があるからこそ、いかにを問うセーリングができ、それが面白さになっていくと思います。

ヨットは風で遊ぶもの。風は風向が変化し、風速が変化します。それがこのゲームのルールです。
変化するのがルールで、その変化にどう対応できるかが、いわばゲームの得点みたいなものです。風向風速が変化するのがルールなら、ルールをより良く知っている方が高得点をあげられる。だから、ルールをきちんと理解しましょう。ヨットがどうやって走るのかを理解しましょう。知れば知る程、面白くなる。

このゲームのもうひとつの面白さは、ゲーム性もさる事ながら、最後は、そのセーリングがどうなのかというフィーリングを得る事ができることかと思います。ゲームは勝つか負けるか、得点が高いか低いかと問いますが、セーリングはその他にフィーリングを重んじます。勝負も得点も関係無いところで、まさに人間の生きる感覚に迫る。最も重要かと思います。しかし、これに迫るには、やはりルールを知って、求める姿勢が無いと、なかなか得られないのではないかと思います。
だから、理屈で考えます。知的ゲームをします。しかし、同時にフィーリングも意識します。どっちが優先か? それはその時々の瞬間に委ねます。

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