第十四話 速さは性能の代表格

ヨットが速く走れる為に、デザインし、バランスを考え、素材、工法を考えます。遅くて良いのなら、いろいろ造りようはある。バラストを重くして、スタビリティーを上げて、その結果重くなっても良いわけです。頑丈な船体にして、重くなっても良いわけです。

でも、高いスタビリティーで、頑丈なハルで、でも、速くしてくれと言われますと、これは難しくなります。そこがデザイナーや造船所の腕の見せ所。と言いましても、現代の世の中、プロのデザイナーや造船所は、そんな事は解っている。プロレーサーの第一線で活躍するなら、その差もあるかもしれませんが、我々アマチュアを満足させるくらいの知識や技術は既に持っていると思います。

では、何が問題なのか? やはりコストですね。コストをかけて、速いヨットを造る。でも、それが売れなきゃ問題です。売れる要素はコストと性能だけとは限りません。見た目のデザインもかなり重要です。扱い易さも重要です。どんなオーナーをターゲットにしていくか、となりますと、マーケットとして小さい。その小さなマーケットに、波長が合わないと失敗という事になります。

コストをかけずに、速いヨットを造る。うまくいけば大成功。でも、そう簡単ではありません。速いだけでは、駄目だからです。そのスピードに見合う船体を造らねばならないし、そのスピードに見合うバランス、そのスピードに見合う全てが揃う必要がある。そうでないとフィーリングはすぐにそれを感じてしまいます。ですから非常に難しい。何が難しいかと言いますと、求めればキリが無い。キリが無いという事は完全は無い。という事は、どこで妥協するかが難しい。

速さを求めるというのは、そのヨットにかなり高いレベルの性能を要求している事になる。本当は別に速さでは無くても良いのかもしれませんが、でも、たとえば、こういうフィーリングを求めますと言っても解りにくい。スピードを求めた方が解りやすい。そのスピードがもたらす新しい感覚、それは船体の堅さや、デザインや艤装から総合してもたらされます。その感覚を気に入るかどうかは人に寄りますが、少なくとも今までは味わった事の無い新しい感覚です。スピードが出るなら、それに見合う他の性能も同時に要求されます。でないとバランスが取れない。バランスが取れないと、フィーリングにおいて良い感触を得られないという事になります。

スピードは緊張感をもたらします。時には不安感にもなるかもしれません。だから、逆に安定感を加える。つまり、堅い頑丈なハルに、高いスタビリティー、それに簡単な操作である事も安心感を得られます。全てはバランスですね。

安心感と緊張感とのバランスです。どっちに偏り過ぎてもいけません。安心感に偏ると退屈になり、緊張感に偏りすぎると不安感にもなりかねません。これもどこで妥協するか?それを、自分の腕である程度はコントロールする事ができる。でも、基本的にヨットの性能が落ちるなら、不安感になりやすい。高性能なら、緊張感を楽しめる。

コストと性能と自分の腕。どこかで妥協は必ず必要ですが、どこで遊ぶか?どこを感じ取るか?それは、どう生きるかという事ではないかと思います。大袈裟ですが。

という事で、スピードを求めるのは、正しいセーリングの有り方ではないかと思います。それは、あるヨットと別のヨットでどっちが速いかという競争のようなスピードでは無く、自分のヨットでより速くを求める事です。そして、いつかその限界に気付いた時、もっと違うスピードを求めたら、買い換えるという事になるんでしょうね。スピードを求めるという事は、違う味わいを得たいという要望でありますね。本当はスピードでは無く、そこから得られる未知の感覚を得たいという事になると思います。という事で、それを代表して、スピードと言います。

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