第八十話 デイセーラーというアイデア

ちっちゃいからデイセーラーというわけではありません。かつては、そんな認識もあったかもしれませんが、今日のデイセーラーは全く考え方が違います。まして、今日のデイセーラーと称するヨットには、60フィートなんかもあります。まあ、この60フィートをデイセーラーと呼んで良いかどうかは解りませんが、少なくとも、コンセプト的には今日のデイセーラーというアイデアを踏襲しています。

今日のデイセーラーというアイデアは、セーリングにおいて、いかにグッドフィーリングを得られるか?というテーマであり、さらにそれを気軽に味わう為には、シングル操作でも、簡単にできるようにする。それは、レースでも無いし、クルージングでも無い。純粋に、ヨットの最大特徴であるセーリングそのものを味わいましょうという事です。

このデイセーラーというアイデアの始まりは、アレリオン28かと思います。かつて、レースを楽しんできた方が、もっと気軽にセーリングを楽しみたいと考えた。そのアイデアをデザイナーに依頼した所から始まります。それが今日のプロダクショ化へと発展していきます。

余談ですが、こういう事は良くある事で、オーナーが希望をだして、一艇のみ建造され、それが良かったので、プロダクション化されていく。新しいデザインは結構、デザイナーからでは無く、オーナーから出てくる事も多い。

アレリオン28を桟橋につないで、その桟橋から見ますと、全体のボリュームは小さい。今日の同じサイズのクルージング艇は圧倒的ボリュームがありますから、それにくらべると小さく感じます。だから、気軽になれるという事もあります、大きなボリュームに圧倒される事も無い。それに風圧面積も低いんです。低いフリーボードがそういう印象を与えます。乗るのに、ちょっと足を上げれば、サイドデッキに乗れます。低いフリーボートに、ライフラインも無いのですから。これは降りる時も同様です。

ちなみに、アレリオン28のコクピット横のサイドデッキ外側のチーク製トウレールの高さは、海面から約、65cm、桟橋の高さが約45cm、という事は、乗り降りの高さはわずかに20cmぐらいです。
乗り降りの非常に楽な事。着岸時、ロープ持ってすぐに桟橋に降りれます。ライフラインにつま先がひっかかる事もありません。

そのサイドデッキにステップしても、ヨットはほんのわずかしか傾かない。安定しています。コクピットは比較的広く、このヨットのメインがコクピットにあると思わせる。艤装を見ますと、後部から、ゆるやかなカーブを描いたチーク製のティラーが伸び、そのすぐ前にはバーニーポストと呼ばれる50cmぐらいのポールが立ち、メインシートはそこにリードされています。従来のトラベラーはコクピット後部に設置され、コクピット内の移動の邪魔にはなりません。

ヘルムシートに座って、後ろを見ると、バックステーアジャスターのシート、メインシートトラベラーのシートがすぐに手が届く。前側を見ますと、各ハリヤード、ジブシート、バング、カニンガム、シングルラインリーフ、ジブファーリングライン、ジブブームのコントロールライン。気がつく事は、一旦セールをあげますと、ウィンチを使う場面はほとんど出て来ない。片手で、ティラー、片手で操作。ジブシートもメインシートも片手でできます。ウィンチ使わないで良いのですから。すると、操作した瞬間に反応も感じます。操作の重さ、軽さも自分の手に感じます。

通常のヨットでは強風で、風上に座って、風下のジブシートウィンチを操作しようとすると、ちょっと難儀しませんか? デイセーラーにはそんなのがありません。

キャビンに入りますと、さすがにフリーボードが低いのですから、キャビン天井も低い。キャビン内でうろつき回るにはちょっとしんどい。でも、バウにバースがあり、マリントイレがあり、メインキャビンにはソファーがあり、まあ、寝泊りできないわけじゃない。クルージングを目指しているわけじゃない。この事で、いかに重心が低くなっているかの恩恵は、セーリングに有り。

エンジンはヤンマーの14HPセールドライブ+フォールディングプロペラ。コントロールはシングルレバーです。舵効きも良いので、楽にマリーナから出せます。マリーナから出たら、メインをあげる。もし、スライダーの潤滑さえちゃんとしていれば、ほとんどトップまでウィンチに頼る事無くあげる事ができます。ジブはファーリング。セールを開いて、いざセーリングへ。

ヘルムシートに座って、舵を握る。そのままメインシート、ジブシートに手が届く。ジブシートと言っても、ブームがありますから。本当はブームの操作ですが。実に簡単です。

でも、簡単だけなら面白くない。セーリングに滑らかさを感じます。これは船体の堅さから来る。ふっと風が変化した時の加速感を感じます。強風での、安定感も感じます。操作に対するレスポンスも感じます。それが面白さで、しかも、気軽にシングル操作ができます。

ダウンウィンドには、そのままジブセールを出して走る事ができます。ジブブームのおかげです。ですから、あらゆる風向において、このままシングルで走る事ができる。しかも楽にです。ジブブームの無いデイセーラーでは、ダウンウィンドではジェネカーを使う前提があります。これには、ファーリングジェネカーという事で対応する事も可能です。

つまり、今日のデイセーラーは、シングルで気軽に乗る事ができる事。そのうえで、セーリング自体が面白い事を目指し、その代わり、クルージングにおけるキャビンの居住性を犠牲にしています。
犠牲にした分、セーリングの味わいは全く違う。今日のデイセーラーというアイデアは、セーリングをいかにと問うたヨットです。セーリングそのものを遊ぶヨットです。

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