第十七話 機能

全ての物には、その役目があって、機能があります。その機能が高い方が良いに決まっています。ところが、人間には感情があって、機能以外のところに目が奪われる。もちろん、それが無意味というわけでは無く、大事な部分、そのバランスが必要なんでしょうね。機能が良くても、感情的に気に入らなければなりませんから。

機能を追及するのは、ある意味、楽です。目的が明確ですから、技術開発、研究を重ねて、目的に近づく事ができます。しかし、感情的な部分は曖昧ですし、流行りなんかもあります。形がカクカクしていたり、流線形になったり、印象が違ってきます。

機能とは実用性であり、それをどういう使い方をされる事を想定しているかになります。広いキャビンのヨットは、そのキャビンの広さを利用して、快適なキャビンライフを演出します。ですから、それに伴い、温水、冷蔵庫、エアコン等があった方が良いと思います。それが機能性の高さというものでしょう。

ヨットにエアコンなんか、と言われる方もおられますが、それは実用性をどこに見るかによって違うと思います。沿岸クルージングを主たる目的にして、エンジンを使って移動する。それなら、快適キャビンで、そこに寝泊りも快適にするのは、当然な考え方だと思います。

一方、セーリングを主体にするなら、セーリング性能を高めて、重心を低くキャビンを控え目にしていくのも当然の考え方になります。もし、クルージングにおいても、ヨットに泊まらないで、ホテルを使うなら、キャビンも重要ではなくなります。

ある使い方を想定して、その機能を高めれば、高める程、その機能においては素晴らしいパフォーマンスをする事ができますが、他の使い方においては、遠のく事になります。つまり、進化すればするほどに、分化の度合いが高まります。

昔は町医者というのが居て、近所の住人の病気は何でも診たものですが、最近は進化して分化し、専門分野に分かれてきました。ですから、専門に診てもらえますから、それさえ間違わなければ、より良いわけです。

ヨットも同じで、今後、ますます分化されていくと思います。機能が、その専門においてますます高まる事になります。クルージング艇にエアコン積もうと考えたら、発電機が要るとか、小さなヨットにはスペースが無いとか、でも、どんなヨットでも可能になるでしょう。必ず、その目的において快適になるはずです。という事は、こういうヨットはますますセーリング離れが助長される。

一方セーリングヨットは、デイセーラーに代表されるように、キャビンには多少は目をつぶり、セーリング機能を高めます。シングルハンドはもちろん、レーサーのスピードをいとも簡単に出せるようになる。微風でも良く走り、強風でもなんのその。そういうヨットになっていく。もう既に、そういうヨットもちらほら出てきました。30フィートあって、バラスト比70%、それに対して、キャビンは殆ど無いというヨットもあります。

そうすると、この二つのヨットは全く異質になります。今以上に、見た目も違ってくる。という事は、ますます、面白くなっていきます。昔なら、苦労したものが、快適になり、簡単になり、それでいて、ハイパフォーマンスだったり、昔のヨットとはくらべものにならなくなります。そういえば、昔レーサーとして建造されたヨットが、今見ますと、どこからどう見てもクルージング艇にしか見えないというのがあります。これなんかも、進化の結果でしょうね。

という事は、一方では、中途半端では居られないという事です。ひとつのヨットで、何でもかんでもとはいかなくなるという意味になります。でも、そうなりますと、それを何とかしようという動きが当然出てきて、町に何でも見れる総合病院があるように、総合的に面倒見ますというヨットが出てくる。
そうなると、当然ながら、でかいヨットになります。でかいから重心を十分低くしても、キャビンを確保する事ができて、より高い技術で硬い、軽いハルを作って、セーリング性能も高める。そういうヨットが出てくるでしょう。でっかいヨットになりますね、こういうのは。

それで見てみますと、すでにそういう兆候があります。60フィートのデイセーラーなんかは、そういう方向にあるような気がしますね。デイセーラーに60フィートなんかと思いますが、でも、60フィートのデイセーラーは、キャビンも十分確保できますね。それに船体はカーボン製。もちろんマストもそうです。ハイパフォーマンス、イージーハンドリング、そのうえキャビンも十分ある。まあ、お値段も破格ですが。この進化の流れは、誰も止める事はできません。でも、一方では、ヨットの場合、クラシックヨットなんかも尊重されます。実に面白いものです。必ず、何かが出るとその反対も出てくる。そういうバランスになりますね。

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