第三十六話 ハイパフォーマンスクルージング艇

最近のクルージングヨットは、大きなキャビンがある割に、バラストは軽い。それがセーリングをする上においてどんな意味を持つのかは明らかです。最近のキャビンヨットのバラスト比は30%以下も珍しく無い。

でも、それはそれで良いんだろうと思います。広いコクピットにテーブルを配し、メインシートはキャビントップに上げ、別荘的使い方とクルージングを楽しむ。こういうヨットにはメインファーラーにして、できるだけ楽に操作できるようにして、それこそクルージングを満喫し、その他は別荘的に使う。そういう意味では、こういうヨットは使い勝手があるわけです。それが欧米流のひとつの形態として発展してきました。

それが日本では使えないのなら、やはりセーリングを日常的に遊び、たまにクルージングに行く。つまり、クルージングは同じなのですが、日常を別荘からセーリングに切り替える。ならば、そのセーリングをより楽しむには、性能が良い方が良いとなるでしょうし、クルー不足の昨今では、2人でもセーリングを堪能できる方が良いし、高い安定性が良いし、セールフィーリングを味わうにも、硬い船体が良い。そして、クルージングに対しては、従来通りで良いわけです。

ハイパフォーマンスと言っても、少人数で楽に操作ができるのなら、何もクルージング派だからと言って、毛嫌いする必要は無い。むしろ、セーリングするにおいては、こういうヨットの方が楽にセーリングができるばかりか、良く走るので、面白さを日常に持つ事ができます。別荘的に使う事が少ないのなら、その方が良いし、たまに別荘的に宴会したり、寝泊りするにも、充分な設備、広さが確保されています。そういう点を良くみますと、日本のクルージング派に適したヨットではないかと思います。

例えば、某キャビンヨット、34フィートですが、排水量に対するセールエリアは16です。そしてバラスト比は25.5%しかりません。でも、それが悪いというのでは無く、そういう風に変わってきたという事です。使い方のコンセプトとしては問題は無い。

一方、某パフォーマンスクルージングヨットですが、同じ34フィートで、排水量に対するセールエリアは22です。これは結構パワフルです。でも、これだけでは駄目ですね。それでバラスト比を見ますと39.6%あります。これだけで全てが解るわけではありませんが、この両者は明らかに異なるセーリング性能を持ちます。つまり、セーリングを日常的に堪能し、クルージングも楽しむというなら、こういうヨットの方が面白いのではないでしょうか?もちろん、別荘的に使うなら別の話ですが、日本では、あまりそういうのが無いと、私には見えます。

このパフォーマンスクルージングヨットを、二人か三人で楽に操船できるのであれば、断然、こちらの方が面白いのではないか?そう思うわけです。

それでクルージングに行くにしても、通常通りメインサロンがあって、バウとスターンにキャビンがある。そういう定番のレイアウト。それにトイレとチャートテーブル、ギャレーと充分です。これなら、別荘的使い方をする場合でも、充分です。違うのは、キャビンヨット程、キャビンは広く無い。でも、充分でしょう。それに、セーリング性能とデッキ艤装のレイアウト。セーリング操作という面においては、パフォーマンスヨットの方が使い易い。

どっちが上か下かという問題では無く、この両者はコンセプトが違っているという事です。クルージング艇であっても、進化の過程において細分化されてきたという事かと思います。

昔はこんな差はありませんでした。しかし、ある時から徐々に、変化してきました。一つはキャビンが拡大し、重心が高くなるも、セーリエリアを削減していきます。それは別荘的使い方と沿岸クルージングにおいて問題が無いばかりか、別荘的に過ごすにはむしろ良かった。また、一方では、クルージング艇であるも、セーリング性能を上げる方向に向かった。そういう細分化が行われてきた。
そういう意味では、レーサークルーザーという言葉の他、ハイパフォーマンスクルージングヨットという言葉が生まれた理由もここにあるかもしれません。

レーサークルーザーという言葉に惑わされる事無く、良く見る事が大切かと思います。もちろん、全てのパフォーマンスヨットがこういう仕様であるわけでは無く、バラスト比が低い、クルーをより多く要するヨットもあります。つまりは、同じ言葉でジャンル化されていても、実質は違うという事になります。それは、クルージング艇とは言っても、沿岸用から外洋用まであるのと同じ事です。

もし、このヨットが、30%程度のバラスト比であるなら、或いは、上記ヨットと同じ25.5%程度しかないとしたら、ちょっと風が強くなるだけで大きくヒールしてしまうかもしれません。それなら、もっと多くのクルーを要するでしょう。でも、そこがコンセプトの違いです。

という事で、クルージング派にもセーリングを遊んでもらいたい。ならば、こういうハイパフォーマンスのクルージング艇で、低い重心を持つヨットが良いのではないかと思います。そして、もし、シングルで、近場ならば、デイセーラーが良いと思っています。近いうちに、このパフォーマンスクルージング艇のご紹介ができればと思います。

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