第三十七話 細分化

物事が発展するに従って、そのジャンルはそのひとつ言葉では言い表されなくなります。専門性が高くなっていきます。ヨットという大きなジャンルは、今日、実にいろんなタイプがあります。それを、むかし、レーサーとクルージングの二つに分けた。

レーサーにしても、本格的グランプリレーサーもあれば、シンプルながらキャビンをそこそこ持つレーサーもあります。クルージング艇でも同様です。実に多くの種類があります。それらは、進化の過程において、よりひとつの事をより速くとか、より使いやすくとか考えた結果だと思います。その事が、その点において優れていくわけですが、同時に、それ以外の点においてはマイナス面も出る。でも、そのマイナスは目指したコンセプトにおいては、問題ないという判断になります。

脳外科専門の病院になったら、脳外科に関しては最高を目指していくわけですが、でも、同時に他の科までは面倒みきれません。でも、脳外科に関して言えば、他の病院に行くよりも、良いわけです。それと同じですね。

ヨットは今後も進化し続けます。それはより専門的になるという事だと思います。レースに興味は無いからクルージング艇だと言ってきました。しかし、そのクルージング艇でも、いろいろ違いが大きくなってきました。もはや同じクルージング艇とは呼べないかもしれません。

そういう細分化が行われ、二つのヨットが離れていく時、その離れた溝を埋めるべく、違うヨットが登場します。分離すれば当然、それを埋めようとします。そこにもうひとつ別なヨットが誕生します。
そして、それがまた進化していきます。

レーサークルーザーはクルージングもできるレーサーでしょうか? 或いは、レースもできるクルージング艇でしょうか?この二つは、また厳密に言うと違う種類のものになります。従って、ヨットが進化すればする程、違いが出てくるので、見る側も言葉に惑わされずに、実際はどうか?と見る必要が出てきます。

そういう意味では、ヨットのデータが参考になります。セールの大きさを規定する、I,J,P,Eや船体重量、水線長、幅、キールの形状、ドラフト、バラスト重量等々。これらのデータによって、ある程度はそのヨットがどんなコンセプトを持つのかを、ある程度推測する事ができます。ジャンルの言葉はあてにならなくなってきました。そのジャンルの中でも、種類の幅が広がってきました。

できれば、それに合わせて、船体構造や工法等も考慮して、船体の硬さ等をも推測できればと思います。見た目のデザインは好き嫌いがあります。これは理屈ではありませんので、どうこう言う問題ではありませんが、実際のこれから先の長い運用面を考えますと、その好きなデザインの下に、どんな特性があるのか?そういう特性が、運用に大きく影響を与えていく。進化とその細分化というのは、そういう影響があると思います。

昔は、クルージング艇と言えば、そう大きくは違わなかった。だから、どれを選んでも、そう違いは無かったのかもしれません。でも、進化、発展する度に、それは専門性を帯びますから、選択する側も進化しなければなりません。そういう意味では昔より、選択は難しくなったのかもしれません。でも、反面、そこをちゃんと見さえすれば、昔のヨットよりは、遥かに楽しく、楽で、面白いという味わいを得る事ができます。間違ってはいけないのは、手を怪我したのに、産婦人科に行くようなものです。こんな馬鹿な事をする人は居ませんが、でも、ヨットなら、同じような事をやっていないか?いずれにしろヨットである事には違いない。しかし、専門の科が違う事はあり得る話です。

それで、我々自身も、何がしたいのかがより明確に見る必要性が出てきます。こういう間違いをしない為に。もはやクルージング艇という大雑把な見方では、自分に合うかどうかは解らないという事になります。我々自身も進化しなければならないという事になります。それさえ良く見れば、昔より遥かに楽しいヨットライフを謳歌できるはずです。

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