第四十八話 レーサークルーザー

レーサークルーザーと称する部門のヨットが全て同じかと言いますと、それも違います。軽い船体に大きなセール面積でも、それを支えるスタビリティーが少ないというなら、場合によっては、クルーの体重でヨットを起こすという事が前提にあるかもしれません。そうなると、少人数で乗るには、ちょっと難しくなる。セールパワーのポテンシャルだけでは何とも言えません。

レースの場合、クルーは必ず乗るわけで、その分の体重はヨットにかかるわけですから、その体重をも利用して、その分船体側の排水量を軽くできるという事を考えても当然かと思います。5人居たとしたら、約300KGぐらいでしょうか、その分の船体重量が軽くなった方がレースとしては有利です。

こういう部分を船体建造においてどう考えるかですが、例えば、ヨットC、レーサークルーザーです。排水量/セール面積比は、I J P Eから計算しますと、20.3になります。これに造船所仕様のメインセールと108%のジブを設置して計算しますと、23.56になります。前回のヨットBに近い数字です。でも、決定的に違うのは、ヨットCはバラスト比30%です。

つまり、セールパワー的には近い数値を得られますが、それを支えるパワーがヨットCはヨットBより低いという事になります。という事は、同じ風の時、軽風ならたいしてヒールしませんから、問題は無いのでしょうが、強風になると、ヨットCはレースとして、クルーの体重移動で起こすという考え方があると言って良いかと思います。

つまり、ヨットCにヨットBと同じバラスト比を持たせますと、排水量がもっと重くなり、セールパワーも減衰してしまいます。ですから、ヨットCは、それはそれで良いわけです。ただ、考え方の違いで、
よりレースよりであり、例えば、ダブルハンドでセーリングを楽しむという点においては、ヨットCはヨットBより早めのリーフとか、そういう事が必要になるでしょう。これはレーサークルーザーのバリエーションと言えます。このヨットCですが、内装はヨットBよりもシンプル化しています。これでも、もちろんクルージングに出かける事もできます。しかし、日常の乗り方を考えますと、レースを意識したヨットと言えるでしょう。

こういうレース寄りのレーサークルーザーとは線引きする為に、敢えて、レーサークルーザーとは言わずに、ハイパフォーマンスのクルージング艇と呼びたいと思います。

何故こういう違いが出てくるのか、というのは、もうひとつの要素があります。それは船体強度をどこまで求めるかになると思います。それは、工法と構造の関係になってきます。強度と排水量の関係になっていきます。

軽くても、強度が無いと、波に負けてしまいます。強度はあるが、重いと走らなくなってしまいます。
という事で、軽く、でも強くといきたいわけですが、それをどこまで求めるかの違いになり、それが工法が構造にも反映してきます。どこで重量を減らすかです。

軽くて強いハルは、速いだろうし、乗り心地にも滑らかさがあると思います。でも、この事は同時に、価格にも反映しますから、どこまでを求めるかになると思います。全ては比較の問題で、この線からこっちはい良い、あっちは駄目という事ではありませんし、CよりBの方がショートハンドセーリングには使い易いという比較です

どんなヨットでも、上には上があるもので、どこかでは妥協せざるを得ません。どうしても妥協できないなら、完全カスタム艇になって理想艇を造るとかになり、価格も相当高くならざるを得ません。
ですから、どこまで求めるかは人によって異なります。ご存じの通り、カーボンでハルを造れば、軽くて強い、でも、高価である事は間違いない。

強度だ、セールパワーだ、スタビリティーだと言いますが、全ては比較の問題ですから、どこにも絶対はありません。それで、比較の問題として、ダブルハンドセーリング+クルージングという観点で、ハイパフォーマンスクルージング艇が良いのではないかと思う次第です。

もちろん、ヨットAでも、ヨットCでも、同じように使えます。でも、その内容とかが違ってきますが、それはヨットBとの比較の問題であります。ヨットBしか使えないという事では、もちろんありません。

という事で、クルージングの方に、各ジャンルのヨットという事での先入観を捨てて頂いて、みんなヨットであるというところから出発し、実際の使い方から考えて、そのジャンルの言葉に惑わされずに、中身を吟味して考えるという事をお勧めしたいと思います。

そういう事で、当社としては、現在までお勧めしてきましたデイセーラー、これはシングルハンドを可能にしたハイパフォーマンスクルージング艇と言っても良いかと思いますが、このデイセーラーに加えて、もっとロングのクルージングを含めた、ダブルハンド程度のセーリングを考えてのハイパフォーマンスクルージング艇という事を考えていきたいと思っています。

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