第八十八話 硬さ、重さ

セーリングを基本に考えますと、軽い船体が良い、硬いハルが良いと言われます。でも、レーサーで無い限り、軽すぎる船体は乗り心地にも影響を与えます。従って、軽排水量の重い方、中排水量の軽い方程度が良いかなと思います。

でも、いずれにしろ、硬いハルの方が良い。これは安全性はもちろんの事、セーリングして、そのセールフィーリングが違ってきます。船体が曲がるとか、ねじれるとかがあるわけですが、それがより少ないというのは良いに決まっています。長年乗って、不具合の出方も違うし、何しろ、セーリングして、波に負けない船体というのは、滑らかさを感じます。

従来、硬いハルは重いハルでした。でも、今日の技術は、いかに軽く、いかに硬くを目指してきました。つまり、それがセーリングとクルージングの両立を可能にしてきています。本来、セーリング性能とクルージング性能は、求める性能が矛盾しています。今日の技術革新は、そのギャップを埋めてきたと思います。

ハンドレイアップという方式は現在でも使われる技術ですが、これには職人のバラツキが出ます。腕の良い職人と、そうで無い職人では違ってくる。余分な樹脂を取り出し、空気を抜く作業です。

その後、全体にカバーをかけて、余分な樹脂と空気を抜くのを、真空引きして気圧で抜く方法が取られるようになりました。いわゆるバキューバッグ方式です。今日ではさらに進んで、このバキュームバッグ方式で、樹脂を浸透させる技術が使われます。これはグラスと樹脂の比率を適切にコントロールできるというものです。軽く、強くを可能にしています。

つまり、この軽くと強くを可能にする事によって、セーリングとクルージングのギャップを埋める事ができる。さらに、この強度が、セーリング中のフィーリングを滑らかにしてくれます。また、軽くできるなら、バラスト重量を増やして、安定性を高めたり、キャビンを充実させたりもでき、それでも、充分な性能を維持できる。そういう事が可能になってきています。

空気の抵抗と水の抵抗では、断然、水の抵抗が大きい。軽いヨットは、海水に沈んだ体積が少なくなり、という事は抵抗も少ない。動きが鋭敏になります。反面、重いヨットは、沈んだ体積が大きいので、動きは鈍くなる。

また、形状も影響し、同じ重さであっても、沈んだ体積は同じでも、表面の面積は違ってきます。面積が大きい方が、抵抗は多くなる。

これらを考慮して、スピードにはフラットな船艇を要求し、乗り心地には、鋭角な船型の方が柔らかい。これも相反する性能です。その中間というのは単純な発想ですが、最近では、エントリーと呼ばれるバウ側を鋭角にして、後部側に行くに従ってフラットにしているのもあります。つまりは、セーリングとクルージングのギャップを埋めるアイデアです。

人間はいろんな要求をします。速いだけを目指すなら、まだ簡単かもしれません。でも、普通は、それで何かの記録でも作ろうという挑戦ならいざ知らず、乗る人間が、いろんな面で楽しむというのが基本になります。ですから、スピードも求めます、でも、乗り心地とかもほしいとか、そういう事になります。そこで、それを可能にしようとするのが人間です。

今日のレーサークルーザー(パフォーマンスヨット)は、昔に比べて、スピードも速くなったし、クルージング性能としても良くなったと思います。だから、今度は楽に乗れるという方向を目指していきます。

今年から取扱いを開始しましたスウェーデンのアルコナヨットですが、ヨーロッパの雑誌テスト評価においても、セーリング性能とクルージング性能の両立として高く評価されています。それは技術の革新と、船型のデザイン、セールプラン等において、同社がコンセプトをそこにおいて集中させてきたからだと思います。

技術はどんどん進んでいます。我々の認識も進化させなければなりません。

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