第二十六話 不便なヨット

誰もが、ヨットを購入しようと思う時、いろんな場面を想像し、いろんな場面に対応できる便利さを求めます。それは一種のオールマイティーさであり、それが賢い選択であると思われる。しかし、果たしてそうだろうか?

そういうヨットは、大抵は、オーナーに負うところが大きくなり、オーナーが遊びを演出していかなければ使いきれないのではなかろうか、とも思います。

一方では、不便なヨットがあります。不便なヨットというのは、オールマイティーではありません。但し、あらゆる場面で不便なのでは無く、ある一点において非常に優れている。でも、他の面では劣るという事。つまりは、得意場面にはまれば、これ以上無い程の力を発揮するというものではないかと思います。という事は、好き嫌いが明確。ある人にとっては最高であり、またある人にとっては役立たずという事にもなります。

日本にも、そろそろ、そういう不便なヨットが出てきてもおかしく無い。そういう不便なヨットは、目指す所においては、非常に面白さを味わう事ができる。ただ、万人向きでは無いという事です。

日本市場は小さい。でも、少なくとも30年も経過する中古が出てきた。という事はヨットの数は少ないにしても、30年の歴史を持ってきた。ある限られた一部の方々かもしれないが、それでも、長い歴史を経験してこられた。

そういうなかで、もちろん数は少ないだろうが、ある一点において優れたヨットというのは、実に面白いのではなかろうか?何でもできますは、良い事なんですが、ある意味、特筆すべき事は無いとも言えます。全部平均点。それも良い。いわゆる万人向きです。でも、そういう万人向きヨットというのは、オーナーが面白さを演出していかなければならないのではないか?そういう意味で、オーナーに負う所が大きい。いわゆるオーナーがそのコンセプトを創りだすものかもしれません。

特徴のある不便なヨットは、その得意な箇所では、オーナーを遊んでくれる。オーナーとヨットのコンセプトが合致した時に、最高の喜びを与えてくれる。そういうのも面白いかと思います。何にもできないんだけど、ここ一点は最高ですよというもの。

何にでも使えるヨットも良いし、ここ一点を持つヨットも面白い。むしろ、日本人のヨットに対する関わり方ならば、ここ一点の方が面白さを味わえるのではないかとさえ思います。何しろ、ヨットに関わる時間は非常に少ないのですから。

その点、デイセーラーは不便なヨットです。キャビンは狭い、大勢は乗れない。でも、シングルでの操作性は抜群です。カタマランは、キャビンとして見るなら、抜群な広さを持つ。それにヒールしない。ヨットでヒールしない。でも、セーリングとして見るなら、あまり面白いとは思えない。レーサーはスピードにおいて優れている。それで良い。レーサーが便利になっちゃ面白く無い。

便利にすると、何かが劣る。全部便利にすると、どうなるか?確かに、メインファーラー、ジブファーラー、広いキャビンにエアコン効いて、何でも揃っているのは便利だし、良い事です。でも、どこかで、学んだり、成長したり、変化を感じたり、何かが必要になる。それだけにオーナーに面白さの演出が求められるのではなかろうか?

ヨットが単なる移動手段なら、便利が良いに決まってます。でも、遊び道具であるなら、ちょっと違った見方もできる。得意分野を満喫しつつ、不便なところには多少の工夫も要求する。そういう工夫も面白さに変える事もできなくは無いと思うのですが。

小さいヨットは波が高いとしんどいかもしれません。でも、いつもいつもそういう場面ばかりでは無く、小さいが故に楽な事もある。しんどい場面でも、いろいろ工夫して走ってきたという苦労は、何も苦い思い出ばかりとは限らない。それが人間の面白いところかもしれません。

だから、不便に遭遇する度に、便利に変えるという、いつもの癖は、ひょっとしたら、面白さを一方では失っていく過程でもあるかもしれません。便利を味わいたいのか、楽を味わいたいのか、それとも面白さを味わいたいのか、そこは一考の余地はあるような気がします。

いろんな事を諦めて、捨てていくと、残った一点に、最高の面白さを味わう事ができるかもしれません。何を捨てて、何を残すか、考えても良いんじゃないかと思ったりもします。面白さは、何でもできるでは無く、ここ一点の面白さ。その他は、工夫する面白さ。何でもできるは便利さ以外にはあまり特筆できる事は無いかもしれません。

ところで、私の車は当然オートマチック、エアコンがあって、GPSがついて、テレビ、CDやDVDも見れる。おまけに車がちょっとふらついただけで警告も出る。便利極まりありません。でも、別にドライビングを楽しむわけじゃなし、移動手段として乗っていますから、別に不満もありません。お楽しみは目的地にあります。つまり、便利さは、ヨット以外に面白さが必要になるような気がします。

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