第五十四話 フラクショナルリグ

最近のヨットを見ますと、圧倒的にフラクショナルリグが多い。と言っても、極端では無く、フォアステーが、マストトップから少し下ぐらいです。そしてスプレッダーは斜め後方に張り出して、ステイのチェーンプレートは、マストの横では無く、斜め後方に位置します。

恐らく、これはバックステーアジャスターを使う前提と、マストを後部から支えるバックステーの支えとしての役目との中間と言いますか、両方を取ったリグではないかと思います。

トップリグでスプレッダーが真横に出ているヨットは、マストの中間部が後ろに行かないように、マストの前側からステイが出ています。マストの前の事もありますし、左右に振り分けてあるのもあります。そして、中間部が前に出過ぎないように、後部からもステイで引いています(ある程度は出しますので緩く張りますが)。 

それで、前側のステイはタック時に邪魔と言えば邪魔、それで、トップリグもスプレッダーを斜め後ろに張り出して、前側のステイをはずしてしまいます。スウィングスプレッダーになりますと、サイドステーを張り、スプレッダーがマストを前側に押し出しますから、マスト中間部が後方に曲がる事は無くなりますから。

さらに、バックステーアジャスターでの調整のし易さを考えて、フォアステーをマストトップから少し下に下げたのでは?少しぐらいなら、バックステーのマストを支える機能もあるだろうし、トップリグよりはマストベンドもし易い?

トップリグのマストベンドは、バックステーが引かれて、フォアステーにテンションがかかって、さらに引くと、下側のプレッシャーとなって、マスト中間が前に出る。かなり力が必要です。でも、フラクショナルでは、フォアステーにテンションがかかって、フォアステーの設置個所( I ポイント)が支点になって、中間部が前に出る。トップリグのそれより、力は軽減されるかと思います。テコの原理ですから、I ポイントがもっと下がって、マストトップ迄の距離が長くなれば、マストベンドはもっとし易くなります。しかし、そうなればなるほど、バックステーはマストを支える力が弱くなる。という事は、その分、サイドステイに負担をかける。或いは、ランニングバックステーを使うか? これはもはや消えつつあります。

マストを支える位置は、マストから離れた位置からステイを取った方がより有効ですから、サイドステーをデッキの外側一杯の位置に取る。或いは、強靭な船体を作る。また、或いは、その両方です。

サイドステーをデッキ外側いっぱいにとったら、ジェノアのセールを内側に引き込めなくなります。それで、小さなジブ。さらに、強靭な船体を作ったら、バックステーも不要になった。そういう事ではないかと思います。

但し、外洋にでるのなら、どんなに時化た海でも航行するのが前提なら、やはり、トップリグで、マストを支えるステイが、中間部も前後から引く方法で、昔からのオーソドックスなやり方の方が良いかなと思います。でも、沿岸部を遊ぶ場合、時化たら逃げる事ができるし、何日も大時化を走らなければならないわけでも無いし、それなら、普段のセーリングをいかに面白くするかを考える方が、理に適っているかなと思います。

つまり、普段セーリングを遊ぶなら、フラクショナルリグの方が良いし、それで、沿岸のクルージングまでこなす事ができる。但し、外洋はまた別の話。外洋と言っても、地域によっては、すぐに外海となる所がありますが、あくまで、時化ても逃げられない、耐えるしかない航行をする時という前提です。だから、外洋艇は強靭な船体と、マストもしっかり支えなければならない。

変な言い方かもしれませんが、沿岸セーリングやクルージングなら、それほど強靭で無くても行ける。ただ、セーリングを前提にしていくなら、やはり強靭な船体であった方が良いと思います。スピードも違うし、何しろフィーリングも違う。でも、軽く。

いろんなヨットがあり、いろんな考え方があり、ひとつの要素は、ヨット全体に無関係ではいられない。総合的なバランスを考えなければならない。実に面白いものです。マストをいかに支えるか、同時にいかに楽に操作できるか、同時にいかに速く走れるか、いかにグッドフィーリングを得られるか、そしてコスト等々、常に考えられています。今の所、その結果が、フラクショナルリグという事かもしれません。

アレリオン33Sのノーバックステーをきっかけに、リグについて、いろんな人に話を聞いたりして教えてもらいましたが、良い勉強になりました。明日からはアレリオン33Sの納艇で、出張しますので、TALKはちょっとお休みします。また、ご報告したいと思います。

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